「賑」の字はいかに虹龍洞を表しているか

幻覚度 5

 東方虹龍洞6面ボス・天弓千亦のテーマ曲「あの賑やかな市場は今どこに 〜 Immemorial Marketeers」は、力強く刻まれるフレーズと時々儚げに映るメロディーが織り交ざった旋律により、当時の世相を跳ね返すかのような市場に対する靭やかな祈りを感じる一曲である。この曲名において「市場」を形容する「賑やかな」という言葉について、調べてみると興味深いことが判ったので、ここに一筆認めてみようと思う。

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 「にぎやか」の語には何故「賑」の字を当てるのか。由来を調べて字の構成要素を見てみると、この字は「貝」と「辰」の2つで成り立っている。部首とされるのは「貝」の方であるが、「賑」は形声文字とも会意文字とも説かれる場合があり、「辰」においてもそれなりにその字の意味が踏まえられていると解釈されるものになっている。両者の意味はそれぞれ以下のようなものである。

 「貝」はそのまま生物の貝を表す字だが、「財」や「貨」など他の同じ部首の字と比較すると判りやすいように、漢字においてこの字を使用する場合は金銭にまつわる意味が付与されている。かつては貝殻が貨幣として用いられていた歴史をご存じであれば、このことは理解しやすいだろう。

 対して「辰」は何を表しているのかというと、実はこちらも貝が関連しているのであった。「辰」は二枚貝が殻を開き肉を震わせる様を象った象形文字であり、その性質からこの字は「物事が活発に動く」様という意味でも解されるようになった。「震」がまさにそうである。

 以上の両者を合わせると、この字の意味は「金銭を介して物事が活発に動く様」を表していることになる。これはすなわち、「賑」という字は成り立ち自体、市場のような活気ある経済的交流の場が由来であったのだ。賑やかな市場というのは単なる理想ではなく、そうあるべくしてそうなのだと、この字について調べる中で私は思い知った。

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 そしてここからはやや確実性に欠けた話になるが、もう一点虹龍洞と繋げて考えられるポイントがこの字にあると考える。

 「辰」は二枚貝の生態が元となった象形文字であると先程述べたが、この字の意味は今ではより広く様々な事象と結びつけられている。その一つが星、とりわけ天の頂点に位置する北極星と北斗七星である。「辰」は中国においていくつかの特定の星を指す際に用いられ、「北辰」とは北極星のことを指した。次第に「辰」は星全体をも表すようになり、「星辰」という言葉があるように星との結びつきを強くしていった。

 そしてもう一つ、こちらはより後世的な解釈になるが「辰」は「たつ」、すなわち「龍」にも結びつけられるようになった。この部分に関して今回では明確な起源にまで至れず、詳細な解説を加えることはできなかったものの、結果としてこれらの「星」と「龍」を結びつける記述が東方作品内に散見される点は着目に値すると考える。

 それは何かと言うと、北斗七星=龍という天文に対する解釈である。この記述は東方香霖堂第21話(単行本第22話)「妖怪が見た宇宙」、東方茨歌仙第25話「渾円球の檻」においてそれぞれ登場し、不動点たる北極星との関係が説かれる。期間の開く中で同じ内容が説かれていることから、この思想は作品全体をして通底しているのだろう。

 虹龍洞に戻ろう。直接的な登場は無かったものの、虹龍洞はそのタイトルにしても龍珠というキーアイテムにしても、「龍」という単語が頻出している。そしてなんと、極めつけに「龍(めぐむ)」と名付けられた「星空」を操る天狗が登場したのである。意図してなのか奇しくもなのか、虹龍洞に表出した諸要素は「辰」の字が含む可能性と対応しているように見える、というのが私の考えるもう一つの視点である。

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 以上、「賑」の字と虹龍洞の関係について思い付いたことを並べてみた。ただしこれは今述べた観念的なところだけではなく、リアルな「賑やかな市場」の熱量を感じさせる力強いメッセージと一体になったものとして受け取った上で、東方作品の中でも屈指のワードセンスがここにはあると感じるのである。もし共感いただけたのなら、この機に是非このことを念頭に虹龍洞をプレイして、作品を再体験されてみてはいかがだろうか。

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