妖々夢?
字面だけを見ると実にみょんながら(おい)、なかなか整った響きを持つ、まさに発明と言える単語である。
「々」という記号は、原則として前の漢字の繰り返しを意味し、読み方も同じになる。
「妖かしの見る妖しい夢」と解釈することもできるし、ここでの「妖かし」とは幽々子のことを指していると考えるのが自然だろう。
夢の内容はおそらくゲーム内の桜であるも明言は避けられていて、その抽象性が逆に味わい深い。
同じ読みなら漢字は違っていても良い?
これは東方原作で頻出するローカルルールである。
『ああそうかい』(植物)や『星蓮船』(聖輦船)などが典型例だ。
これは一種の言葉遊びであり、漢字に圧縮された情報を「同じ音で別の漢字を当てる」ことで、連想と想像を倍増しに膨らませる効果がある。
星蓮船におけるUFOと秘宝のイメージのずれが、物語に奥行きを与えていたのと同じ理屈である。
ならば「妖(よう)」の後の「々(よう)」にも別の漢字を当てはめることも、東方の中ではそこまでルール違反ではないのではないか。
小学校の国語でそれをやったら完全アウトだが。
古典の歌に「ある」のに「ない」、日本の原風景
奈良~平安時代での春の歌と言えば、花の主役は梅であった。
桜はまだ二番手で、夜の桜=「夜桜」となると詠まれる機会はさらに少なかった。
それでも夜桜をテーマに歌を詠む場合は、真っ暗闇の中では視えない存在を月と桜の両方に見立て、それを「侘び寂び」のイメージとして共通認識していたようだ。
試しにAIに「夜桜」が入った和歌や長歌を探してもらったら幾つかあった。
しかし、夜の桜だったり、この桜は夜が明ける頃にはーみたいな「夜桜」と言う単語を遠回しにしたか、分解したものばかりだった。
そこで再度AIに「夜桜と言う単語の入った古典の歌を探してほしい」と要求したら「それはない」との回答であった。
平安時代には夜桜という単語の入った和歌はなく、江戸時代からぼちぼち詠まれていたらしく、ちょっと盲点だった。
タイトル内の「ない」のに「ある」見えない単語
夜桜の訓読みは「よざくら」、音読みは「よおう」「やおう」である。
ここで敢えて音読みを「よおう」から「よぉう」と伸ばして読むことも出来るのではないか。
妖々夢の「々」に東方のローカルルールに則って夜桜を代入すると妖夜桜夢(ようようむ)になる。
ナンバリングタイトルが三文字であること、本作の時代背景が平安時代であり、そこでは「夜桜」という語がまだ歌の単語として定着していなかったことを考慮すれば、「々」を使って音の中に「夜桜」を隠した可能性は十分にある。
まさに真っ暗で隠されている「視えていない」イメージを体現したネーミングとも言える。
「やうやう白くなりゆく山ぎは……」
枕草子の有名な冒頭「春はあけぼの」に続く小節である。
「やうやう」は「だんだん」という意味だと学校では教わるが、この「やう」を「夜桜」と見立てると「夜桜夜桜」で、桜を含んだ山々の夜明けの情景が一気に鮮やかになる。
あの頃の桜の音読みはアウだったので、夜+桜でヨォウでなくとも、ヤアウと言う発音の洒落は通じるものと思われる。
枕草子本文を前述のような解釈で行うと「山々に咲く桜が、夜と朝の境目で白く浮かび上がる様子」もまたイメージとして含む形になる。
ただ文学者の実験で朝日が真っ先に照らすのは、山肌やその木々ではなく山の辺縁(山ぎは)だったという証明はなされているため破綻した考察ではあるが、ワンチャンありそう(確率に頼りだしたぞ)。
また万葉集にある桜の歌は44つであり(45つという解釈が主ではある)、44=ようよう(やうやう)で、それこそ桜の事を指してた、なんて暗号な解釈も出来そうである
なんで東方考察してたら、枕草子の考察が出てきそうなんでしょうかね(知るか)
白玉楼の「白玉」とは
中国由来の、死後の詩人の魂が休む楼閣が由来であるという説は聞いたことがあると思う
敢えて、今までの解釈の続きで名前の由来を付けるならば、幽々子の夢が「夜桜」だったというイメージから、白玉楼の「白玉」も夜桜の可能性が出てくる。
実際、夜に桜の木の下を歩くと、今はライトアップがあるので風情があるのかないのか、少なくとも白い玉=夜桜の花がふわふわ宙にあるのを楽しめる。
東方神霊廟の1面ステージが白玉楼であり、夜桜を冠したBGMやスペルカードも存在する。
幽々子は平安時代の人間でありながら「夜桜」というやや新しい単語を使うのは時代錯誤かとも思えるが、幻想郷に明治期以降の真っすぐで四角い長方形の墓石を持ち込んだのも命蓮寺(平安由来)の面々であることを思えば、時代を超越したセンスの持ち主がいる場所がヒントであることがむしろ一貫している。
魔理沙と紫の会話
東方妖々夢で、八雲紫が「今宵は新月だが明るくした」と言い、魔理沙が最後に「夜桜の妖怪か」と返す場面。
これは「昼と夜」で「生死の境界」を表現すると同時に、新月では見えないものを明るくして初めて現れる「桜」と重ね合わせた上での、「夜桜(やっと出てきた/見てとれた)の妖怪」という魔理沙らしい返しになっている。
新月と夜桜の関係=どちらも真っ暗で見えない、は前述の通り古典的解釈であり、魔理沙が博識であることを再認識させる。
紫は平安時代生まれの幽々子に強い親しみを持つ妖怪であり、美学センスも親友に染まり平安時代寄りである。
魔理沙が、夕方→明け方と来て、今まで遠回しに避けて表されてきた「夜桜」という単語を、突然に風情もなくストレートに使ったことが紫の癪に障り、急に会話が切れて弾幕ごっこに突入した、という解釈も成り立つ。
まとめ
妖々夢という単語に隠れるは、視えていなくてもいいが無意識下に視える「夜桜」だった。
「東方妖々夢」というタイトル自体に、東方のルールに則って「妖々=ようよう」を「々=夜桜」と柔軟に読み替える余地が隠されており、見えない桜、死して初めて見える桜、新月の暗闇に浮かぶ桜という、幻想郷らしい儚さと美しさを体現していた。
おまけ
魂魄妖夢が会話するときにはカタカナ単語(外来語)をほとんど使わない(例外はスペカの難易度Hardなどや、心中のゾンビギャグなど)。
一方、夜桜という平安時代よりあとの新しい言葉をスペルカードの名前に自然に使う幽々子は、平安時代の歌詠みのルールに縛られない規格外の存在なのである。

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