はじめのはじめに
本考察は、せろり(@ cerulea_xien)様主催の蓬莱人形オンリーweb即売会である「蓬莱レーヴシルク〜Dreamers in Phony Paradise【Light!】」の展示作品です。
簡単なまとめ
【きっかけ】
名詞比率とMVRを用いて芳しい成果を出したい。失敗したままは悔しい。
【やったこと】
1ネット上に散らばる初版蓬莱人形のブックレットテキストのヴァリアントを整理しました。
2初版蓬莱人形とプレス版蓬莱人形のブックレットテキストを形態素解析して名詞比率とMVRを算出しました。
【わかったこと】
おそらく最も「正しい」初版蓬莱人形のブックレットテキストを、本考察の最後に付録として載せています。
両作品の名詞比率とMVRはほとんど同じでした。ただし、楽曲単位で見ると初版のほうが動詞が多くなりました。
【考えたこと】
両作品の文体はほとんど同じで違いはわずかでした。であるなら、違いよりも共通点に着目したほうがいいのかもしれません。今回導かれた名詞比率とMVRは2002年当時のZUNの文体説を提唱します。
今回用いたのは名詞比率とMVRのみですが、本当はもっと色々な要素が用いられます。一文の長さなども考慮に入れて、もう一度両作品を比べてみようと思います。
はじめに
筆者は以前、『東方幻存御籤』のおみくじ原案者を文体から特定しようと試みたことがある[1]。しかし、全体の半分は指標となる数値を算出できず、算出できた場合も想定した結果とは程遠いものだった。明らかに誤ったアプローチであった。ただ、指標として用いた名詞比率とMVR自体はとても興味深いものであり、だからこそ散々な結果に終わってしまったことが悔しく、なんとかそれらしい結果を導くことができる題材はないだろうかと筆者は半年近く思い悩んでいた。そんなとき、蓬莱人形のブックレットテキストを思い出した。蓬莱人形はそれなりのテキスト量があり、しかも二種類のヴァリアントがある。さらに両者は一読するだけでわかるほどに文章の雰囲気が違う。ここまで印象が違うのだから、きっと文体も違うだろう。鮮やかなまでに差別化された結果が導かれるに違いない。
以上の動機から、本考察では、初版蓬莱人形とプレス版蓬莱人形のブックレットテキストの文体を比較した。終わってみれば、新たな発見や今後の展望が開けただけでなく、明確な違いが明らかになった。リベンジは成功といって良いだろう。
使用するテキストについて
筆者は初版蓬莱人形を所持していない。だが、インターネット上には初版蓬莱人形のブックレットがいくつも公開されている。まずは、それらの中から分析に用いるヴァリアントを選んでいこう。
筆者が軽く検索した限り、初版蓬莱人形のブックレットテキストの全文が掲載されているホームページは以下の5つだった。
①「Dolls in Pseudo Paradise/Story」『Touho WIki』[2]
②「蓬莱人形C62版/附带故事」『THB wiki』[3]
③「蓬莱人形(C62版)、考察」[4]
④「蓬莱人形初版 ブックレットストーリー考察」[5]
⑤「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」『kafka-fuura』[6]
このうち①④⑤はテキストの内容が全く同じであり、②と③はわずかに内容が異なっていた。このことから、インターネット上には大きく分けて3種類の初版蓬莱人形のテキストが存在することがわかる。このような差異は如何にして生まれたのだろうか。柴「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」によると、こうした違いはインターネット上で繰り返されたコピペに由来するという。引用をしつつ現状に至るまでの流れを振り返ってみよう。
最も早く初版蓬莱人形のブックレットテキストを掲載したサイトは①の「Touhou wiki」である。その内容は、それ以前に掲示板に投稿されていたテキストと「共通の特徴と誤記が確認できる[7]」ことから、掲示板に散逸していたブックレットテキストを集積したものであるという。続いて②の「THB wiki」が全文を掲載したものの、その「テキストは「Touhou Wiki」と共通している[8]」。また、同時期には③がブログに投稿されているが、「「Touhou Wiki」などのテキストに含まれる誤記らしくみえる部分を修正していることが推察される[9]」ことから、こちらも「「Touhou Wiki」から転載、改変したテキストだと考えるのが自然だ[10]」としている。その後「C62版蓬莱人形ブックレットの比較[11]」にて新たな誤記が指摘され、それが「Touhou wiki」と「THB wiki」の記事に反映され現在に至る。掲示板のテキストを継ぎ接ぎして公開された「Touhou wiki」の記事をベースに「THB wiki」と③のブログ記事が作られたが、「Touhou wiki」と「THB wiki」は内容が刷新される一方で、③はアップデートされることはなかったということだろう。つまり現在閲覧できる「Touhou wiki」と「THB wiki」のテキストは幾度かの変遷を経ており、③のテキストは「Touhou wiki」と「THB wiki」の古体を残しているといえる。④と⑤のテキストに関しては、誤記の共通点などから、刷新後の①のテキストを参照していると思われる
しかし、上で挙げたどのテキストはどれもオリジナルそのものではない。「オリジナルのテキストにほぼ正確[12]」だという②のテキストも「1か所のみ誤記が残っている[13]」という。そのため、本考察では「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」というブログ記事の指摘を反映したテキストを採用する。
もっとも、本考察で用いた手法では、上記5つのテキストのどれを参考にしたとしても結果は変わらないだろう。誤記であるとされる単語と正しいとされる単語は語彙こそ違えども品詞は同じであるため、分析上は同じ品詞として計上されるからだ。
なお、プレス版蓬莱人形のブックレットテキストは手元のアルバムを参考にしている。
名詞比率とMVRについて
本考察では文体の違いを客観的に示す指標として、名詞比率とMVRを用いる。これは樺島忠夫[14]が提唱したものであり、テキストに含まれる品詞の比率から文章の特徴を分析する際の指標である。もともとは近代短編小説の分析に用いられる手法だが、学校歌[15]、和歌[16]や短歌[17]にも通用することがわかっている。
名詞比率はテキスト中の名詞を品詞の数で割ったものに100を掛けることで、MVRはテキスト中に含まれる形容詞・形容動詞・副詞・連体詞の比率(M)を動詞の比率(V)で割ったものに100を掛けることで、それぞれ求められる。
『東方幻存神籤』の戎瓔花を例に考えてみよう。以下は戎瓔花の「楽しんでいれば勝ちなんですよ。例え、死んでたって。[18]」というテキストに含まれる品詞の一覧と比率である。
Mに100を掛けVで割ると25になるのでMVRは25。そこに名詞比率を添えると、戎瓔花のテキストは「名詞比率17 MVR25」ということになる。
さて、こうして導かれた数字は名詞(N)と形容詞・形容動詞・副詞・連体詞(M)と動詞(V)の割合によって3種類のタイプに分類される。具体的な数値は以下のようになる[19]。
それでは、『東方幻在御籤』のテキストを例に、それぞれのタイプの特徴を見ていこう。
①要約的な文章…名詞比率が大きくMVRが低い場合。
ルーミア:名詞比率56・MVR33
「心に闇を抱えたら、既に忍び込まれていると心得よ。[20]」
②ありさま描写的な文章…名詞比率が小さくMVRが大きい場合。質や状態によってとらえて表現する。
クラウンピース:名詞比率17・MVR150
「地獄は暗くて見えないだと?どうだ明るくなったろう。[21]」
③動き描写的な文章…名詞比率が小さくMVRも小さい場合。動きによってとらえて表現する。
フランドール・スカーレット:名詞比率20・MVR33
「折角頑張って作り上げたんだから、盛大に破壊しようよ。[22]」
これを踏まえると「名詞比率17 MVR25」である戎瓔花のテキストは、名詞比率が低くMVRも小さいため、動き描写的な文章であるといえるだろう。
なお、本考察では名詞比率とMVRを説明するにあたり樺島(1965)を引用しているが、理論そのものは水谷 (1977)[23]が完成形となっている。また、名詞比率とMVRという指標自体も「品詞構成率の比をとるのでは複雑な相互作用を捉えきれな[24]」く、「各品詞の働きは必ずしも想定通りではない[25]」ことが指摘されている。しかし、前者は数式だらけで理解できず、後者については分析において必須である統計学処理を筆者の環境では実行できなかった。そのため、本考察では筆者が理解でき、かつ筆者の環境でも同じ処理ができる樺島(1965)に基づいた分析を行った。
調査手法・事前の予想
初めに初版蓬莱人形とプレス版蓬莱人形のブックレットテキストを文字に起こし、「WEB茶豆[26]」を用いて形態素解析を行った。「WEB茶豆」は形態素解析ができるオンラインツールである。あらかじめ複数の辞書が用意されているほか、解析前の処理もワンクリックで実行できるため、解析したいテキストさえ用意できれば気軽に形態素解析をすることができる。本考察では「現代語の書き言葉一般」と「現代語の話し言葉の書き起こし」の辞書を使用して2パターンの解析を行い、結果がわかれた個所については違和感のない方を採用した。
次にテキスト中の名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞・連体詞の数を集計し、それぞれの比率とMVRを計算した。樺島(1965)では、文体を分析するにあたって文長や指示詞なども用いているが、本考察では純粋に名詞比率とMVRの数値を比べるだけにとどめている。
ここで事前の予想を述べておこう。まず、初版とプレス版のMVRはそこまで大きく変わらないと考える。ただし、初版はストーリーが明確に存在するため、プレス版に比べて小説に近い結果になるだろう。場面転換やアクション要素は少ない印象があるため、ありさま描写的だろうか。一方でプレス版は連続性のないショートストーリーなため、短い文章のなかに要素を詰め込む必要がある。したがって初版よりも要約的な文章に近いと考えた。初版は名詞が少ない代わりに動詞や形容詞などが多く、プレス版は名詞が多い代わりに動詞や形容詞などが少なくなるのではないだろうか。
結果
結果を項目ごとに整理したものが表1である。作品ごとに見た場合、初版とプレス版の名詞比率とMVRにはあまり違いがないことが明らかになった。名詞比率についてはともに20であり、MVRについても初版が50でプレス版が44と、大きくも小さくもない。どちらも動き描写的な文体であるといえる。ただし、プレス版のMVRはエニグマティクドールによって大幅に引き上げられている。エニグマティドールを抜いた場合のプレス版はMVRが35まで下がるため、プレス版のほうが動き描写的な文体ということになる。
一方で、楽曲単位の名詞比率とMVRには差があった。表2は初版蓬莱人形の、表3はプレス版蓬莱人形の名詞比率とMVRを整理したものである。名詞比率が低い点はどちらも同じだが、MVRについては楽曲ごとに大きな違いがある。プレス版の楽曲はMVRのばらつきがあるが、初版の楽曲はそこまで差がない。動詞とその他の品詞の比率を比べてみると、初版のほうが動詞の比率が高いようにも見える。また、楽曲単位で見た場合でも、MVRは初版のほうが高いことがわかった。また、楽曲単位で見た場合「蓬莱伝説」と「Witch of Love Potion」のみ、名詞比率とMVRの値が初版とプレス版でほとんど変わっていなかった。
初版はありさま的でプレス版は要約的という予想をしていたが、実際は両者ともに動き描写的であった。また、予想では初版とプレス版のブックレットテキストの違いを名詞に求めていたが、実際には動詞の比率にあった。
考察
初版とプレス版のブックレットテキストの文体はほとんど同じだが、楽曲単位で見た場合、初版のほうが動詞の比率が高いことがわかった。初版は動詞が多く、プレス版は動詞が少ない。つまり、初版とプレス版の違いは動詞の数であるといえる。
本考察では全体と楽曲単位で名詞比率とMVRを算出し、比べることで初版とプレス版のブックレットテキストの違いを明らかにした。しかし、先行研究では「文章全体と文ごとの品詞構成率では指標のふるまいが異なる[27]」ことが示唆される結果が指摘されている。楽曲単位で比較をするとどうしてもテキストの総量が少なくなってしまうため、実態をつかめていない可能性がある[28]。とくにプレス版のブックレットテキストは初版に比べて文字数が少ないため、信頼できる数値なのかは正直よくわからない。いずれにしても、初版のほうがプレス版よりも動詞の比率が高いことには変わらないだろう。
話は変わるが、ZUNの文体は非常に独特だ。「結婚を機に丸くなった」という感想を聞いたことがあるが、文章に込められた毒が和らいだとはいえ、いわゆる神主節は健在であるように思う。しかし、神主の文体がどのように変化したかを客観的に検証した考察は、少なくとも自分は知らない。トレースして使いこなしている人は見たことがあるが、その文体は柔らかくなる前の文体に近い印象を抱く。
本考察では、2002年当時の神主の文体が、少なくとも音楽作品のブックレットテキストレベルでは似通っていたことが明らかになった。つまり、本考察で明らかになった名詞比率とMVRは、2002年当時のZUNの文体である可能性がある。もっとも、今回の結果は音楽作品を対象にしたものであるため、原作書籍やSTGとは分けて考えた方がいい。それでも、音楽作品を無視する理由にはならないだろう。むしろ、音楽作品のブックレットが、神主の文体について考察をする上で役立つことを示す証であると考えている。そういった意味では、今回の結果は神主の文体の変遷について客観的に考察するスタートラインに立てたといえよう。
神主は音楽作品を数年ごとに発表している。STGほどの頻度ではないものの、継続してテキストを発表しているという点はSTGや原作書籍と変わらない。そこにはおそらく、STGや原作書籍と同じくらいの密度で、神主の文体の変遷が反映されている。STGや原作書籍のみならず、本作以降の音楽作品のブックレット、すなわち秘封作品のテキストに表れる神主の文体を考察する必要もあるだろう。
おわりに
本考察では、初版蓬莱人形とプレス版蓬莱人形のブックレットテキストの名詞比率とMVRを比較し、初版とプレス版のブックレットテキストを楽曲単位で見た場合、初版のほうが動詞の比率が高いことを明らかにした。また、両作品の名詞比率とMVRがほとんど変わらないことから、両作品の名詞比率とMVRが2002年当時のZUNの文体である可能性があること、そしてZUNの文体について考えるうえで音楽作品が役立つことを示した。
本考察では名詞比率とMVRのみを用いたが、実際には他にもいくつかの指標が存在する。そうした指標を用いることで、ZUNの文体にさらに近づくことができるだろう。引き続き分析を続けていきたい。
付録
以下は、柴「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」において指摘された誤字を反映した初版蓬莱人形のブックレットテキストである。せっかくなので載せておこうと思う。
サーカスレヴァリエ ;誤「感心」 正「関心」
リーインカーネーション :誤「五寸」 正「5寸」
あとがき :誤「出すことになりました」 正「出すこととなりました」
Touhou Wikiの訂正点は上記の三カ所となっている。なお、THB wikiの訂正点は「あとがき」のみである。
【冒頭】
僕ら正直村はもともと八人だけだったのだ。
全員で東の山に引っ越すことになって二年が
経とうとしていたんだ。正直退屈な毎日だった。
ある日、一人が桃の木の脇に小さな穴を発見した。
そう、それから僕らはこの楽園に迷い込んだのだ。
そして僕はさっそく、人間をやめた。
【1.蓬莱伝説】
最も好奇心の高い僕は、先を急ぎ森の奥を目指した。奥で謎のピエロに呼び止められ、なにやら嬉しそうに蓬莱の玉の枝を手渡されたんだ。受け取ろうとしたら一瞬で首と体が離れたようだ。僕は動く事も喋る事も出来なくなって、二度と仲間に会うことが出来なかった。
残りの正直者は七人になった。
【2.二色蓮花蝶〜Red and White】
朝は、池の上に紅と白の二色の巫女が踊ってるのが見えた。最も早起きな僕は、その無慈悲で過激な舞に長い間魅了されていたんだ。やがて雨が降り始め、僕は我にかえった時、もう巫女の姿は無かった。
【3.桜花之恋塚 ~ Japanese Flower】
雨は止むことを知らなかった。巫女はしっとりと全身を濡らしたまま、雨に溶け込む様に消えていく。巫女に見とれているうちに雨は恐ろしい嵐になり、最も美しいボクはピエロに捕らわれたのだ。そのままピエロは嵐の中に消え、もう僕らの所へ帰る事は出来なかった。
残りの正直者は六人になった。
【4.明治十七年の上海アリス】
夜、六人は異国風のパーティを開催した。最も幼い僕はまだお酒も阿片も飲めなかったのでひどく退屈だったんだ。僕は一人でこっそりその場から抜け出したんだけど、暗闇で不吉なピエロに捕まってしまったんだ。僕は、あっさり首を切られた。もう退屈することも二度と出来なかった。
残りの正直者は五人になった。
【5.東方怪奇談】
僕は息が切れるまで走った。最も臆病な僕は、この楽園が怖くなったのさ。この位予想していたことだけど、いくら走っても帰り道を見つけることは出来なかったのだ。もう僕の想い人も消えてしまっている、生きていても仕方が無い、僕は失意の後に太い枝に縄を縛りつけ首を掛けた。
…僕はなぜか意識がある。縄が脆かったのか?…
最も臆病な僕は生まれ変わった。もう失うものは何も無い、僕はもう一度だけ人間の真似をしてみることにしよう。
【6.エニグマティドール】
目が覚めたら僕ら五人は暗闇に居たんだ。一人の言うことには、僕らは謎のピエロにさらわれたらしい。四人は幼稚な脱出計画を立てている。最も聡明な僕は、止めとけばいいのにと見ていたがとうとう口に出さなかったのだ。四人の予定通り計画は実行され、一人の予想に反し成功に終わったんだ。そして僕は永遠に逃亡出来なかった。永い暗闇の中で暇を潰していると、すぐに僕らの中にピエロがいたことに気づいてしまった。ふと後ろに気配を感じたが、身を任せた。熱いものが背中を伝った。
【7.サーカスレヴァリエ】
僕らは見事脱出に成功したんだ。僕らは何て賢いんだろうと関心し、楽園に見つけた住みかに帰ろうとした。誰もお互いを疑う事なんて考えたことは無かったのさ。みんな正直者だったんだ。みんな仲良しだったんだ…
【8.人形の森】
楽園は、僕らが住むにちょうど良い建物を用意してくれた。森の奥にある古びた洋館は、いつでも僕らを受け入れてくれる。でもいつもなら大量に用意する食事も、いつもの半分で済んだ。
正直村の僕らはいつのまにか半分になっていたのだ。
【9.Witch of Love Potion】
午後は、いつもお茶の時間と決めていた。いつもならだた苦いだけの珈琲が、今日は僅かに甘く感じたんだ。それが惚れ薬-Love Potion-入りだったとは…
最も大人びた僕は、美しきピエロに恋し幸福のままに眠りに落ちた。
残りの正直者は三人になった。
【10.リーインカーネーション】
僕は明らかに毒で殺された仲間を見てしまったんだ。あれは自殺のはずがない。珈琲は僕が適当に選んで皆の部屋に配ったんだからな。他の二人には彼の死を伝えなかった。最も警戒心の強い僕は、自分で用意した食事以外は口に入れなかった。他の二人が寝静まるまで必死に起きていた。
僕らは別々に部屋に入って鍵をかけた。そう僕は二人のうちある一人を疑っていたんだ。どこからか、すぐ近くで木に釘を打つような音が響いて
いたんだ。一体どっちの仕業だろう? 暗闇の中恐怖に顔が歪む。音に合わせ僕の手足が痛む。まるで5寸もある釘で打たれたかのようだったんだ。霊媒師にでも相談しようとも考えたが、ある事に気付いてしまったんだ。そうだった、僕が木に打ち付けられていて動けないんだった。どっちが僕を木に打ち付けてるのだろうか?
そして最後の釘が眉間に当てられた。
そこには予想通りの顔が見えた。
声を出す間も無く、光は完全に途絶えた
【インターバル】
君は余りにも腑抜けだったのだ。
正直者が馬鹿を見るということが分からないのか?こんな隠居暮らしで昔のあの鋭い感覚が麻痺したのか?もう一度街の賑わい、富と快楽が恋しくないのか?僕は、昔みたいに皆で盗賊団になって、もう一度人生やり直したいだけだったのに。
一仕事終えた僕は、朝食の準備をし夜があけるのを待った。
【11.UNオーエンは彼女なのか?】
最も早起きな僕の意識は、すでに虫の息だったんだ。今朝のハムエッグに何か盛られてたんだろうな。なんて僕は頭が悪いのだろう、二人になるまで全てが分からなかったなんて。全部あいつの仕業だったんだ、気違いになった時点で殺しておくべきだったんだ。
いずれにしても、もう遅すぎたな…
いつかの巫女が見えた気がした。僕の幻覚なのか?それにしても髪の色はあんなブロンドだっただろうか。僕の命と引き換えに、もうしばらく幻覚を見せて欲しいと言う願いは、前者だけ叶ったようだ
【12.永遠の巫女】
あれから生まれ変わった僕は、昨日は夕食後、強烈な睡魔の襲われたんだ。頭が割れる様に痛い。昨夜のことが何にも思い出せない、永い夢を見ていたような気がする。目の前の現実さえ見なければもっと良かったのに…
何てことだ、一人は珈琲に毒、一人は木に打ち付けられていて、そしてもう一人は首をはねられてたなんて…
僕は椅子と縄を用意し最後に呟いた。
最後に死んだとしたら、珈琲で死んだ奴しかありえない。
つまり、そういうことなのか?
そういうことなのだろう。
僕の夕食にも何か盛られていたようだな。
そんなことはもうどうでもいい、僕は一人だけなんだ。
もうこんな嘘つきだらけの世に未練など、無い。
今度は丈夫な縄を天井に縛り、僕は高い椅子を蹴った。
今度こそ、二度と体が地面に着くことは無かった。
そして正直者は全員消えた
【13.空飛ぶ巫女の不思議な毎日】
楽園の巫女は、いつもと変わらない平和な夏を送っていた。
ある夏の日、巫女の日記にはこう書かれていた。
8月〇日
今日遭った出来事といえば、森の廃洋館のある方から歩いてくる美しいブロンドの少女に遭ったこと位ね。その少女をどこかで見たような気がしたけど、私はそんな瑣末な事に頭を使おうとはしないの。その娘はいたずらに舌を出しながらぺこりと頭を下げて、大笑いしながら楽園の出口の方に向かっていったわ。変な娘ね。
そういえば、あの娘は正直者八人組の唯一の女の子だったわね、そんなことはどうでもいいけど。
あーあ、今日もまた退屈な一日だったわ…
この楽園「幻想郷」から人間の数が八人ほど減り、七人の遺体は無事妖怪たちに持っていかれた。幻想郷は正直者を永遠に失った。ただの数値の変化だ。そんなことは、大したニュースでも無い。
【あとがき】
きっと始めましてZUNです。長い間創曲活動をしてきましたが、うっかり音楽CDを出すこととなりました。内容はというと、実に時代に逆行していますレトロラブなのです。特にいまの小洒落たダンス系ゲームミュージックではなく、一昔前のストレートなゲームミュージックが好きな方に最適です(狭)あと、全体的に少女チックになっていますので、そういう趣味の方にも聴いてもらいたいです。
これからも、東洋風と西洋風に、アンティークなオリジナル曲を作曲していきたいと思っています。
ちなみに、このCDを聴くとなぜか安心できないものがあります。
それは、道を外れるとモノは安定しないからでしょう。
蓬莱人形は「癒さない系」CDなのかもしれません。首吊るし。
参考文献
ZUN『東方幻存神籤 Whispered Oracle of Hakurei Shrine.』KADOKAWA 2025
樺島忠夫, 寿岳章子 著『文体の科学』,綜芸舎,1965. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2508747 (参照 2026-01-23)
水谷静夫「語彙の量的構造」『岩波講座日本語 9 語彙と意味』岩波書店1977
浅石卓真「テキストの特徴を計量する指標の概観」『日本図書館情報学会誌』第63巻3号2017
井関 龍太「歌詞の品詞構成が反映する文体特徴の探索的研究」『計量国語学』35巻3号 計量国語学会2025
関龍太「品詞構成に基づく文体指標は読者の印象とどのように関わるか」『計量国語学』 33巻 7号 計量国語学会2022
大川孔明「平安鎌倉時代の文学作品の文体類型」『計量国語学』31巻8号 計量国語学会2019
富士池優美「平安初期歌合和歌の品詞比率」『第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集』国立国語研究所2021
渡邉幸佑「坂口安吾の計量文体分析」『情報の科学と技術』第72巻11号 一般社団法人 情報科学技術協会 2022
「Dolls in Pseudo Paradise/Story」『Touhou Wiki』2026年1月22日閲覧
「蓬莱人形C62版/附带故事」『THB wiki』2026年1月22日閲覧
京都秘封探訪「蓬莱人形(C62版)、考察」『京都秘封探訪』2026年1月22日閲覧

瑠里れむ天色「蓬莱人形初版 ブックレットストーリー考察」2026年1月22日閲覧
https://note.com/ruritenshiki/n/ne32111f68749
Kafka「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」『kafka-fuura』2026年1月22日閲覧

柴「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」『閉鎖路地』2026年1月22日閲覧

塢城「C62版蓬莱人形ブックレットの比較」『幻想記憶保管庫』2026年1月22日閲覧

耀ちん「霧雨魔理沙の文体について考えよう【失敗】」幻想郷学講談所 2026年1月22日閲覧

「web茶豆」https://chamame.ninjal.ac.jp/index.html(2026年1月1日利用)
ZUN『蓬莱人形 -Dolls in Pseudo Paradise-』上海アリス幻樂団2002年8月
ZUN『蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise』上海アリス幻樂団2002年12月
注釈
[1] 耀ちん「霧雨魔理沙の文体について考えよう【失敗】」幻想郷学講談所 2026年1月22日閲覧

[2] 「Dolls in Pseudo Paradise/Story」『Touhou Wiki』2026年1月22日閲覧
[3] 「蓬莱人形C62版/附带故事」『THB wiki』2026年1月22日閲覧
[4] 京都秘封探訪「蓬莱人形(C62版)、考察」『京都秘封探訪』2026年1月22日閲覧

[5] 瑠里れむ天色「蓬莱人形初版 ブックレットストーリー考察」2026年1月22日閲覧
https://note.com/ruritenshiki/n/ne32111f68749
[6] Kafka「蓬莱人形 ~ Dolls in Pseudo Paradise」『kafka-fuura』2026年1月22日閲覧

[7] 柴「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」『閉鎖路地』2026年1月22日閲覧

[8] 同上
[9] 同上
[10] 同上
[11] 塢城「C62版蓬莱人形ブックレットの比較」『幻想記憶保管庫』2026年1月22日閲覧

[12] 柴「インターネット上に流通している蓬莱人形初版ブックレットテキストの異同や出自について」『閉鎖路地』
[13] 同上
[14] 樺島忠夫, 寿岳章子 著『文体の科学』,綜芸舎,1965. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2508747 (参照 2026-01-23)
[15] 井関 龍太「歌詞の品詞構成が反映する文体特徴の探索的研究」『計量国語学』35巻3号 計量国語学会2025
[16] 富士池優美「平安初期歌合和歌の品詞比率」『第6回コーパス日本語学ワークショップ予稿集』国立国語研究所2021
[17] 大川孔明「平安鎌倉時代の文学作品の文体類型」『計量国語学』31巻8号 計量国語学会2019
[18] ZUN『東方幻存神籤 Whispered Oracle of Hakurei Shrine.』KADOKAWA 2025 118ページ
[19] 樺島忠夫『文体の科学』130ページの図より筆者が一部を抜粋したもの
[20] ZUN『東方幻存神籤 Whispered Oracle of Hakurei Shrine.』2025 17ページ
[21] 同上105ページ
[22] 同上25ページ
[23] 水谷静夫「語彙の量的構造」『岩波講座日本語 9 語彙と意味』岩波書店1977
[24] 井関龍太「品詞構成に基づく文体指標は読者の印象とどのように関わるか」『計量国語学』 33巻 7号 計量国語学会2022
[25] 同上
[26] 「web茶豆」https://chamame.ninjal.ac.jp/index.html(2026年1月1日利用)
[27] 井関龍太「品詞構成に基づく文体指標は読者の印象とどのように関わるか」『計量国語学』 33巻 7号
[28] これこそが『東方幻存御籤』の文体の考察がうまくいかなかった原因だろう。









コメント
ネット上に公開されている現物の写真と見比べたところ、【付録】のテキストにも誤字が残っているようでした。参考までに以下に書き出しておきます。
・「エニグマティドール」→「エニグマティクドール」
・8.「でもいつもなら」→「でも、いつもなら」
・「リーインカーネーション」→「リーインカーネイション」
・10.「声を出す間も無く」→「声も出す間も無く」
・「UNオーエンは彼女なのか?」→「U.N.オーエンは彼女なのか?」
・11.「叶ったようだ」→「叶ったようだ。」
・12.「全員消えた」→「全員消えた。」
・あとがき「逆行していますレトロラブなのです。」→「逆行しています、レトロラブなのです。」
・あとがき「東洋風と西洋風に」→「東洋風に西洋風に」