蘇我屠自古小考

 それではお付き合いよろしくお願いいたします。

 初めは「智霊奇伝神霊廟編に屠自古が出るべき10の理由」という記事を書こうかとも思ったのですが、そんなにネタを思いつかなかったのでとりあえず今浮かんでいるあれそれを取り留めもなく書き連ねる気楽な方向にチェンジしました。どうぞお気楽にお読みいただければ。

 

 東方神霊廟5面中ボスの蘇我屠自古さん。キャラ設定テキストでの種族は亡霊と表記される一方で、求聞口授の記述では「性質はいわゆる怨霊である」と語られている点は、彼女に関心を抱く人の多くが目を付けていることでしょう。とりわけ既に怨みの薄れているような彼女が何故現世に留まり怨霊特有の雷の力も使えるままなのかは疑問の対象となり得る事柄であり、智霊奇伝などで「怨霊における怨みの薄れは存在の消滅を意味する」ことが強調されている現在ではより問題として浮き上がってくるように思われます。

 これについて一つの仮説を述べてみたいと思います。すなわち、屠自古は彼女以外にも存在する「諸々の蘇我氏の怨霊」を取り込んでいるのではないか、というものです。彼女の使用するスペルカードの一つには、怨霊「入鹿の雷」があります。世にも知られる中大兄皇子の起こした乙巳の変で殺害された蘇我入鹿ですが、彼は後世において怨霊になったと認識されています。『扶桑略記』斉明天皇の記事では天皇重祚の同年に空中に現れた怪しげな者が「入鹿の霊ではないか」と噂されたことが記されており、その数年後多くの臣下が続けて亡くなったことも入鹿の霊の祟りだとされています。

 乙巳の変では入鹿だけでなく彼の父・蘇我蝦夷を中心とした一族丸ごと滅ぼされてしまいました。その一族の怨みを取り入れる形で、彼女は今も怨霊としての力を発揮していると考えるのは一興になりはしないでしょうか。

 

 また、加えて述べておきたいことに、彼女と鬼の関係があります。雷矢「ガゴウジサイクロン」・雷矢「ガゴウジトルネード」としてスペカ名の中に登場する「ガゴウジ」は、元興寺の鬼伝説に由来すると思われます。その原型となったであろう話は『日本霊異記』に記載されており、雷神の報いにより生まれた怪力の童が元興寺に棲む鬼を退治するといった内容になっています。元興寺の前身であった飛鳥寺は蘇我馬子創建の寺であり、寺自体彼女の出自との関連性を窺うこともできますが、雷矢という符名からして雨雲を操る雷神の要素に着眼点があることも間違いではないでしょう。そもそも「鬼」の語は古来「霊」に対して用いられていたということもあり、両者の関係には語るに易くない共通性があると考えられます。

 

 さて、智霊奇伝の迷宮編が終わり新たな章を迎えるにおいて、残された謎の一つに瑞霊と鬼の関係があります。いかにも終盤ボスな二つ名付きで登場しておいて、依然としてその行動の真意が知れない伊吹萃香。そんな彼女に二度も助けられた現怨霊・宮出口瑞霊。古より忌み嫌われてきた鬼と怨霊の両者が交わるこの物語に、果たして蘇我屠自古が登場しないことがあるでしょうか。登場するべきです。登場してくれ……。

 

 というところで今回の筆はここまでにして、次回からの智霊奇伝を心待ちにしたいと思います。ご一読ありがとうございました。

 延期するなら何卒早めにお知らせください(切実)

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