星蓮船のシナリオにおいて何故「星」というワードが登場するのか。皆さんはどのように考えるでしょうか。自分は以前まで、何となく宇宙っぽいから、という認識でいました。しかし改めて考えてみたところ、ある曲の解釈と合わせるとそこに一つの筋が見えるような気がしました。今回はそれについて稚拙ながら書き記していきたいと思います。
まず、星蓮船で宇宙が言及されている場所はどこでしょうか。目立つのはEXTRA周りの設定ですが、UFOは主人公達の想像の産物であり、ぬえも残念ながら宇宙人ではありませんでした。そこでそれ以外のところに目を向けてみると、6面に行き着きます。聖白蓮のテーマ曲「感情の摩天楼 ~ Cosmic Mind」。ここでのCosmicはどのような意味になっているのでしょうか。
まずは主題と副題を結びつけてみましょう。摩天楼は「天」を「摩」(こす)る「楼」、すなわち空の限界に届くほどに高い建物を意味します。この言葉のどこがcosmicにかかるかとなったら、勿論「天」です。観測できる限り最大の空間を表す言葉である「宇宙」、それに匹敵するほどまで広がっていく感情……というのがこの曲名に込められた意味だと考えられます。
では、この意味というのは星蓮船の物語のどこからきているのでしょうか。結論から述べると、これは恐らく仏教思想に由来していると考えられます。聖白蓮及び命蓮寺の教義については諸説ありますが[1]、黄昏作品などで用いられる阿闍梨という称号や元ネタと関わりの深い信貴山朝護孫子寺の宗派などから、真言密教の教えが一端にあることは間違いないでしょう。
一口に仏教と言っても、様々な教えもあれば様々な仏がいます。真言密教において特に重視されるのは大日如来です。その理由は、この宇宙の一切が大日如来の表れである、とされるからです。人も獣も草木も国土も全ては大日如来が変じたものであり、これを逆に捉えることで全てのものは仏になり得るという理屈が生まれます。それを根拠に、真言密教では生身の存在のまま仏に成る即身成仏を目指した修行を行うことになります。
さて、仏に成るということですが、大仏のような姿になることかと思えばそれは違います。先程の話からすると、仏とは個の存在ではなく世界の根本として偏在するようなものです。宇宙全てが仏の表れである、それすなわち仏は宇宙に等しいものと言えるのです。
そろそろ解釈のための関係式が出来上がってきます。密教では宇宙に等しいものである仏になることを目指す。「個」としての人間が「全」になる。「個」の「感情」、「全」たる「宇宙」。この曲名は主題・副題ともに、「個」から「全」へと至る悟りの境地を表すものになっていたのではないでしょうか。
ここまで来たところで、星の話に戻ります。東方において「星」についての解釈は早くからなされています。三月精のコラムに次のような話があります。
星とは火(ほ)し、つまり遠くの住処の灯りを意味している。(上海アリス通信三精版第3号)
一方で、星蓮船にも「火」というワードが出てくる場面があります。6面道中曲「法界の火」。当サイトではこちらの記事が先行して曲名解釈をなさっています。今回はこれに加えて別角度の解釈を試みます。
実はこの「法界」、先程紹介した大日如来と似たような意味でも用いられることがあります。すなわち、仏の法に基づく世界そのものや宇宙の一切の存在といった意味です。ここで今まで出てきた情報を総合すると、「法界の火」は「宇宙の星」と読み替えることができるのです。
宇宙にとっての星、それは今までしてきた「個」と「全」の話にそのまま対応すると思われます。私達は星と聞いただけで宇宙を連想するができます。それは星が宇宙を構成する要素であるからです。星々が存在していなかったら、宇宙はただの無の空間となり世界として認識することはできません。一つ一つ存在している星が、世界としての宇宙の存在に繋がっているのです。
これが最終的に、聖の第一声である台詞にも繋がります。
ああ、法の世界に光が満ちる
「法の世界」は「法界」であり「宇宙」、「光」は「星」であり「個の存在」、それが「満ちる」ことこそ「感情の摩天楼」であり「Cosmic Mind」だと考えられるのです。
以上まとめにかかると、星蓮船は飛倉の伝承から連想された仏教や宇宙というテーマを「個」と「全」、「ミクロ」と「マクロ」の対比として表現し合わせた作品であり、星はそのとき「個・ミクロ」の象徴となる、というのが今回述べた解釈になります。
個と全という問題は、境界とも深く関わる事象です。この観点が東方project全体の問題においても通じることがあったらいいなと期待しつつ、今回の記事は締めさせていただきます。
ご一読ありがとうございました。
[1] 両者の教義や宗派については以下のような記述がある。
・求聞口授の会話で、寺での修行内容を聞かれた際に六波羅蜜を挙げている。
・幻想ナラトグラフのスポット紹介で「禅寺」と述べられている。
コメント
記事中にて語られた「星」「火」のありように加えて、星蓮船では、その星々の関わり・交わりと、それが織りなす構造について、スターメイルシュトロム/魔法銀河系という言葉で表現されていますね。
補足ありがとうございます!
確かにそうだ……こんなところにも