霧雨魔理沙の文体について考えよう【失敗】

幻覚度10

はじめに

『東方幻存神籤』には、東方projectに登場するほとんどのキャラクターの設定がおみくじの形式で収録されているが、その内容は作中の登場人物が分担して考えたという。本考察では、品詞比率とMVRを用いて霧雨魔理沙が担当したおみくじを特定しようと試みた。結果は失敗に終わったが、いくつかの課題が見えてきた。

※この記事は、第12回博麗神社秋季例大祭にてサークル「マクヤ・テソット」が配布したペーパーを加筆修正したものです。

 

名詞比率とMVR

名詞比率とMVRとは、テキストに含まれる品詞の比率から文章の特徴を分析する際の指標である。MVRはテキスト中に含まれる形容詞・形容動詞・副詞・連体詞の比率(M)に100を掛けたものを動詞の比率(V)で割ることで求められる。

『東方幻存神籤』の戎瓔花を例に考えてみよう。以下は戎瓔花の「楽しんでいれば勝ちなんですよ。例え、死んでたって。」というテキストに含まれる品詞の一覧と比率である。

Mに100を掛けVで割ると25になるのでMVRは25。そこに名詞比率を添えると、戎瓔花のテキストは「名詞比率17 MVR25」ということになる。

さて、こうして導かれた数字は、「名詞率が高い文章は要約的な文章であるのに対し、名詞率が低い文章は描写的な文章である。描写的な文章のうちMVR が大きいものはありさま描写的な文章でありMVR が小さいものは動き描写的な文章である見込みが高い[1]」と解釈される。これを踏まえると、名詞比率が低くMVRも小さい戎瓔花のテキストは動き描写的な文章であるといえるだろう。

 

きっかけ

幻存神籤のおみくじには複数の筆者がいるが、だれがどのおみくじを担当したかは明かされていない。ただし、明言されていないものの、霧雨魔理沙は担当したものが予想できるコマがある[2]。本考察ではそのコマに描かれたキャラクター、すなわちチルノ、姫海棠はたて、幽谷響子、物部布戸、稀神サグメ、クラウンピースの六人のおみくじを、霧雨魔理沙が担当したと仮定する。そのうえで、六人のおみくじの名詞比率とMVRを導きだすことで、霧雨魔理沙の文体を特定しようと試みた。

調査手法

名詞比率とMVRを導き出すにあたって、まず初めにWeb茶豆というサイトを用いてテキストの形態素解析を行った。次にテキスト中に含まれる品詞を数字に置換し(名詞は1,動詞は2といった具合)、その数を集計することで、テキストに含まれる品詞の種類と数を明らかにした。最後にそれらを上記の計算式に落とし込み、名詞比率とMVRを割り出した。

 

結果

以下がその結果である。

名詞比率とMVRを求めることが出来たのは物部布都とクラウンピースのみであった。それ以外の五人に関しては、該当する品詞が含まれておらず、計算することができなかった。また、収録キャラクター128人のうち、MVRを求めることができたのは68人だった。

 

考察

名詞比率とMVRを求めることができたのは二人だけだった。求めることのできたキャラも、布都が「63/50」と要約的な文章であるのに対し、クラウンピースは「17/150」とありさま描写的な文章であり、真逆であった。また、名詞比率だけを見ても、クラウンピース・チルノとそれ以外では比率に明らかな差がみられた。この結果から霧雨魔理沙の名詞比率とMVRを推測することを筆者はできなかった。

このような結果に至った要因として、「①辞書の性能」「②テキストの文体に明らかな特徴がみられる」「③そもそも同一人物のテキスト」がある。ひとまず③は置いておこう。このうち①辞書の性能は改善が見込める。本考察では形態素解析をする際、Web茶豆にデフォルトで搭載されている辞書を使用したが、東方projectにまつわる語彙がうまく処理できなかった。ここに東方に関する語彙を登録できれば結果も変わってくるだろう。また②について、『幻存神籤』のテキストは文体が明らかに違う。セリフを模したものもあればキャッチフレーズめいたものもあり、そのキャラクターを一言で表現するようなものもある。それらが文体に影響を与えていることは明らかだが、本考察ではそうした因子を掴めていない。

おそらく、ただ単に名詞比率とMVRを求めただけでは「誰が書いたか」はわからない。名詞比率とMVRに加えて文章の印象を生み出す要素(漢字や平仮名の割合、敬体か常体か、テキスト全体のリズム感など)を組み合わせることでようやく、「誰が書いたか」の域に達するように思う。

参考になると思われる作品として『The Grimoire of Marisa』がある。この本のテキストを分析することで、より霧雨魔理沙の文体に近づくことができるだろう。霧雨魔理沙が書いた設定のテキストを集め、その名詞比率とMVRを算出する。気が遠くなるような行程ではあるが、気が向いたときに進めていきたい。

 

参考文献・ホームページ

樺島忠夫・寿岳章子『文体の科学』綜芸舎1965

井関龍太ほか「現代語小説の品詞構成に基づく文体印象の分析」『計量国語学』第34巻3号計量国語学会2023 

ZUN『東方幻存神籤』株式会社KADOKAWA 2025

形態素解析ツール「Web 茶まめ」https://chamame.ninjal.ac.jp/ 2025年4月14日利用

[1] 井関龍太ほか「現代語小説の品詞構成に基づく文体印象の分析」『計量国語学』第34巻3号計量国語学会2023 158頁

[2] ZUN『東方幻存神籤』株式会社KADOKAWA 2025 8頁

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