戎瓔花のイラストはなぜ少ないのか ―「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」タグの投稿数と傾向について―

この記事について

この記事は、第十一回博麗神社秋季例大祭にて筆者が配布したペーパーを、大幅に加筆修正したものとなっています。ペーパーでは省略した部分も全て載せました。

秋例の際にお手に取ってくださった方も、ぜひ目を通してもらえるとうれしいです。

 

簡単なまとめ

【きっかけ】

瓔花ちゃんのイラストが少ない。どうして。

【やったこと】

pixivを対象に、2024年9月30日までに「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」タグをつけて投稿された一般向けのイラスト作品を、月毎に集計しました。それを図に整理しました。

【わかったこと】

以下の傾向が見つかりました。

①基本的にイラスト投稿数のピークは登場作品が頒布された年であり、それ以降は下降傾向にある

②登場作品とは関係のない要因でイラストの投稿数が増える場合がある

③同じ作品のキャラクターはイラストの投稿数の推移が近い

④いわゆる「小数点作品」に登場するとイラスト投稿数が微増するが、原作書籍に登場してもイラスト投稿数には変化がない。

⑤「○月△日は◇◇の日」といったタグの存在は、イラスト投稿数を増やすことにはつながるものの、干支や年中行事ほどの影響力はない。

なお、ロスワの動向はイラスト投稿数には影響を与えていませんでした。

また、人気投票の支援作品は、牛崎潤美の2024年8月のイラスト投稿数に限って、影響を与えていそうでした。

【まとめ】

「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」のイラスト投稿数に対する影響力の大きさは「原作>干支・年中行事>ファン活動」だといえそうです。つまり原作に登場すればイラストが増えます。ただ、これはあくまで上記三人の話であって、他のキャラクターには当てはまらないはずです。

もっとデータが欲しいので、今後も正確な方法で集計を続けていきたいです。

 

 

はじめに

東方projectは二次創作が盛んな作品群である。二次創作が毎日のように生み出され、そしてインターネットに投稿されている。しかし、筆者が好きな戎瓔花の二次創作を毎日見かけることはない。なぜ戎瓔花の二次創作は毎日投稿されないのだろうか。なにか理由があるのだろうか。もしあるとしたら、筆者に何かできることはないだろうか。

本稿では、こうした疑問と願望に基づき、pixivに投稿された「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」タグのついたイラストを集計した。三者に共通する傾向を見つけることができれば、戎瓔花の二次創作が増える一助になるかもしれない。

 

調査

集計の対象は、2024年9月30日までに「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」タグをつけて投稿された一般向けのイラスト作品とした。検索オプションの設定は「イラスト・マンガ・うごくイラスト」とし、タグは「完全一致」とした。調査時期は、坂田ネムノが10月11日~12日、牛崎潤美は10月8日と10月10日、戎瓔花は9月12日~13日と10月8日である。調査日が小分けになっているのは、すべてを人力で集計した都合上、時間がかかってしまったためである。なお、集計したデータとpixiv上で表示される総作品数には、それぞれ50~100件程度の誤差が生じている。

 

結果

集計した結果を元に、年毎と月毎に整理したグラフを作成した。

図一は三者のpixivイラスト投稿数を年ごとに集計したものである。折れ線の動きはイラスト投稿数の推移を表しており、線が上がれば増加を、線が下がれば減少を示している。

図二は2017年から2024年の間にpixivに投稿された三者のイラストを月毎に集計したものである。5月を例にすると、2017年から2024年の5月に投稿されたイラストの総数は、坂田ネムノが258件、戎瓔花が293件、牛崎潤美が304件となる。

図三、図四は坂田ネムノのイラスト投稿数を月毎に整理したものである。図四では、2019年5月のデータを取り除いている。

 

 

図五は戎瓔花のイラスト投稿数を月毎に整理したものである。図六では、2019年5月のデータを取り除いている。

図七と図八は牛崎潤美のイラスト投稿数を整理したものである。図八では、2019年5月と2021年1月のデータを取り除いている。

なお、凡例はグラフ毎に異なっているため、各図に記載のデータラベルを参考にして欲しい。

 

考察

以下の傾向があることが分かった。

①基本的にイラスト投稿数のピークは登場作品が頒布された年であり、それ以降は下降傾向にある

②登場作品とは関係のない要因でイラストの投稿数が増える場合がある

③同じ作品のキャラクターはイラストの投稿数の推移が近い

④いわゆる「小数点作品」に登場するとイラスト投稿数が微増するが、原作書籍に登場してもイラスト投稿数には変化がない。

⑤「○月△日は◇◇の日」といったタグの存在は、イラスト投稿数を増やすことにはつながるものの、干支や年中行事ほどの影響力はない。

⑥その他怪しい要素について

 

それぞれを見ていこう。

 

①イラスト投稿数のピークは、基本的に登場作品が頒布された年

図一を見ると、イラストの投稿数は登場作品が頒布された年が最も多く、以降は年を経ることに減少している。また、図二を見ると、三者ともに5月のイラスト投稿数が多いことがわかる。その理由については、図三、図五、図七のデータを見れば一目瞭然だ。本稿で取り上げた三人は体験版が頒布された月に多くのイラストが投稿されている。牛崎潤美だけは2021年1月が最も多いが、これは例外である。

イラスト投稿数に関しては、初登場時がもっとも勢いがあるといっても差し支えないだろう。

 

②原作に登場するとイラスト投稿数が増える

図一と図二を見るとわかるように、イラスト投稿数は初登場時が一番多い。しかし本稿で取り上げた三人が初登場したのは体験版である。完成版は影響を与えるのだろうか。

・坂田ネムノの場合

坂田ネムノは、2017年5月7日に頒布された『東方天空璋』の体験版で初登場した。その後『東方天空璋』は2017年8月11日に完成版が頒布されている。完成版の頒布後にイラスト投稿数は増えたのだろうか。図三を見ると、もっともイラストが投稿されたのは2017年5月であり、次点が2017年9月となっている。その後は10月、11月、12月と続いていく。次点が9月である理由はわからないが、体験版のキャラクターはイラストの題材にする優先順位が低かったのかもしれない。なお、坂田ネムノのイラスト投稿数は完成版頒布から12月まであまり変化が無いが、12月のイラスト投稿数は別の要因で増加していると思われる。そのため、坂田ネムノのイラスト投稿数が完成版の影響を受けた期間は11月まで、つまり頒布後3か月程度だと考えられる。

・戎瓔花の場合

戎瓔花は、2019年5月5日に頒布された『東方鬼形獣』の体験版で初登場した。その後、2019年8月12日に製品版が頒布されている。図五・図六を見てみると、2019年5月がトップで次点が2019年9月と、やはり8月ではなく9月が二番手である。その後、11月にかけて徐々にイラスト投稿数が減っていく点は坂田ネムノと同じであるものの、戎瓔花は体験版頒布から製品版頒布までの間もイラスト投稿数が多いままである。やはり理由はわからないが、それくらい戎瓔花のキャラが立っていたのだろうか。戎瓔花のイラスト投稿数も、やはり完成版の頒布後3か月は勢いが止まらない。これは体験版も同様である。

・牛崎潤美の場合

牛崎潤美は、戎瓔花と同じ作品で初登場した。図七を見てみると、2021年1月と2019年5月がツートップであることがわかる。2021年1月は一旦置いておくとして、ここでは図八を見ていくことにしたい。ここまで見て来た二人とは違い、牛崎潤美のイラスト投稿数は9月よりも8月の方が多いことがわかる。一方で、完成版の頒布から3か月が経つ頃にはイラスト投稿数がひと段落し、12月に入るとまた微増するという流れは他二人と同じである。そして何よりも、牛崎潤美のイラスト投稿数は、他の二人に比べるとあまり波がない。体験版の頒布から10月まで常に同じペースでイラストが投稿され続けたことは、牛崎潤美の魅力と無関係ではないだろう。

 

イラスト投稿数に差があるものの、三者とも似たようなペースで二次創作が投稿されていることが分かった。完成版の頒布後2か月はイラストが多く投稿されることはほぼ間違いなく、キャラクターによっては体験版の頒布後も2か月近くイラストが多く投稿される。原作に登場するとイラスト投稿数が増え、その効果は2か月ほど続くのだろう。『東方鬼形獣』以降の作品と『東方天空璋』以前の作品で、一面・二面・三面ボスを対象に、体験版頒布から完成版頒布までの期間に投稿された作品数を比較してみるのも面白そうだ。

なお、これまでの話はすべて整数作品に限ったものであり、少数点作品には当てはまらないことを明記しておく。坂田ネムノは2018年7月19日に頒布された『秘封ナイトメアダイアリー』と2022年7月22日に頒布された『バレットフィリア達の闇市場』に、戎瓔花と牛崎潤美は『バレットフィリア達の闇市場』に登場している。しかし、図四・図六・図八を見るとわかるように、2018年7月と8月、2022年7月と8月のイラスト投稿数にこれといった変化はない。登場回数が少ないため確認していないが、書籍作品についても影響は少ないと思われる。

原作に登場するとイラスト投稿数が増え、その影響は2か月ほど続くことは間違いない。しかし、整数作品あるいはセリフのある作品でないと、その効果は発揮されないのだろう。

 

③同じ作品のキャラクターはイラスト投稿数の推移が似ている

図一の戎瓔花と牛崎潤美を見てみると、投稿数の変遷がほぼ同じであることがわかる。2021年こそ牛崎潤美が突き抜けているが、2022年の投稿数は戎瓔花とほぼ同数なので、むしろ干支のもつ影響力の強さがよくわかる結果になっている。

 

④東方Projectとは関係のない要因でイラストの投稿数が増える場合がある

・牛崎潤美の場合

図一を見るとわかるように、牛崎潤美のイラスト投稿数は2021年が最も多い。

これは2021年が丑年であったことが原因だと考えられる。ピクシブでは年末年始にかけて年賀状を兼ねたイラストが投稿される。2021年が丑年だったため、年賀状のイラストに牛崎潤美が起用され、イラスト投稿数が激増したのだろう。

また図七と図八からは、2020年12月と2021年2月にもイラスト投稿数が増えていることがわかる。丑年の年賀状イラストが前月と翌月の投稿数にも影響を与えたのだろう。なお、図七を見ると2020年1月にも牛崎潤美のイラストが増加していることがわかる。2021年1月と同様にこちらも年賀状イラストの割合が多い。実装以来初のお正月ということもあり、年賀状イラストのモチーフに取り上げられたのだと思われる。

・戎瓔花の場合

同様の傾向は戎瓔花にも見られた。

2019年の12月から2020年の1月にかけて投稿された戎瓔花のイラストは年賀状を意識したものが目立つ。戎瓔花と恵比須を関連付けたのだろう。また、戎瓔花も2020年2月のイラスト投稿数が増加している。なお、2021年1月にもイラストの投稿数が増えているが、こちらは同一の作者が過去作をまとめて投稿したためである。戎瓔花もまた、初登場後初めてのお正月に、年賀状イラストが一定数投稿されたことは間違いない。

・坂田ネムノの場合

坂田ネムノも年賀状のイラストが投稿されている。『東方天空璋』が頒布された年の年末年始、つまり2017年の12月と2018年の1月である。図四を見ると、他二人と同様に翌月2018年2月にもイラスト投稿数が増えていることがわかる。

また、翌年2019年の1月にも年賀状イラストが投稿されているが、2018年1月ほどの熱量で投稿されることはなく、それ以降は落ち着いている。なお、坂田ネムノのイラスト投稿数は2021年の9月にも増加しているが、これも同一の作者が複数のイラストを投稿したためである。

 

三者に共通する点として、初登場した年に、年賀状という形で多数のイラストが投稿されたことが挙げられる。また、その影響は翌月まで続くものの徐々に熱量自体は下がりつつあり、翌年以降は初年の勢いは見られなかった。

整数作品のキャラクターは、初登場した年のお正月に、年賀状イラストのモチーフとして取り上げられる傾向にあるといえるだろう。

 

⑤記念日タグの存在は、イラスト投稿数を増やすことにはつながるものの、干支や年中行事ほどの影響力はない。

・記念日タグについて

東方のキャラクターには、「○月△日は◇◇の日」という記念日がある。本稿で取り上げたキャラクターでは、坂田ネムノは「7月21日は坂田ネムノの日」、戎瓔花は「11月14日は戎瓔花の日」と「毎月8日は瓔花の日」が該当する。なお、牛崎潤美の記念日は見つけることができなかった。まずは、記念日がイラスト投稿数に反映されているか見てみよう。

・坂田ネムノの場合

坂田ネムノの記念日は7月21日である。図四からは、2021年と2024年の7月にイラスト投稿数がわずかに増えていることがわかる。

しかし、もともとの投稿数が少ないこと、そして同じ年の前月との差があまりないことから、これだけでは記念日の影響であるとは考え難い。一方でPixivには「7月21日は坂田ネムノの日」タグのつけられた作品は12件あった。またTwitter上にも複数のイラストが投稿されている。また、Pixiv・Twitterともに2018年に初めてタグが使用されているものの、総投稿の多くを2024年が占めていた。図四で見たように、2024年7月のイラスト投稿数もわずかに増えている。つまり、2024年の7月に限っては、記念日タグがイラスト投稿数に影響を及ぼした可能性がある。したがって坂田ネムノに関しては、記念日タグがpixivのイラスト投稿数に与える影響は少ないものの、ゼロではないといえそうだ。ただし、それよりも2024年にタグを用いたイラスト投稿数が増えた要因を考えた方が良さそうである。

・戎瓔花の場合

続いて戎瓔花の記念日を見ていこう。戎瓔花の記念日は二つあるが、データを月単位で集計した都合上一日単位での比較ができないため、ここでは「11月14日は戎瓔花の日」のみを扱う。図六を見てみると、11月のイラスト投稿数は2019年以降減少していたが、2022年を境に増加していることがわかる。

 

また、前後の月と比べても11月だけ投稿数が多い。念のため数字も確認しておこう。図九は2019年から2023年の10月・11月・12月に投稿された戎瓔花のイラスト数である。

2019年には及ばないものの、2022年以降投稿数は20後半に安定している。2022年以降、毎年11月になると戎瓔花のイラスト投稿数が増えていることは間違いないようだ。

では、なぜ2022年以降なのだろうか。Pixivでタグ検索をしてみると、「11月14日は戎瓔花の日」タグのついた作品は2件しかない。しかし、Twitterには「11月14日は戎瓔花の日」タグと共にイラストを載せるツイートが複数あり、そのほとんどが2022年以降に投稿されている。「11月14日は戎瓔花の日」で検索してみると、2022年11月14日にとあるアカウントが「11月14日は戎瓔花の日」タグを使用し、それからタグが頻繁に用いられるようになったことがわかった。ここからは「『11月14日は戎瓔花の日』タグが2022年11月14日にひとりのファンによって取り上げられ、それをきっかけに使用されるようになり、イラスト投稿数に影響を与えた」という流れを見出すことができる。したがって、戎瓔花に関しては、記念日タグがpixivにおけるイラスト投稿数に影響を与えていると考えて良いだろう。

坂田ネムノと戎瓔花は記念日タグがあり、戎瓔花はイラスト投稿数に影響を与えていたが、坂田ネムノは影響の有無がはっきりしなかった。両者はなにが違うのだろうか。ここで改めて記念日タグと投稿数について振り返ろう。坂田ネムノは、記念日タグこそ2018年から用いられているものの、2024年以前の投稿は散発的である。一方、戎瓔花の記念日タグは2022年にひとりのファンが使用したことで突如爆発的に投稿が増えた。両者の相違点があるとすれば、やはり「きっかけ」ではないだろうか。筆者の主観では、戎瓔花の記念日タグを広めるきっかけとなったファンは、ファンコミュニティ(「界隈」)において、比較的大きな声を持つ存在だった。記念日タグがイラスト投稿数に影響を及ぼすためには、周囲に対して訴求力を持つ個人や集団が、記念日タグを用いて発信する必要があるのかもしれない。

しかし、戎瓔花と坂田ネムノに関しては、記念日タグのイラスト投稿数に与える影響が、干支や年中行事ほど大きくないことに変わりはない。通時的なモチーフの強さが如実に表れた結果といえるだろう。

 

⑥その他影響がありそうだと感じた要因について

・pixivのイラスト投稿数と「東方ロストワード」の動向

東方projectには「公認二次創作」という概念があり、その中のひとつに「東方ロストワード」というソーシャルゲームがある。「東方ロストワード」は2020年4月30日に配信開始[i]したスマートフォン向けのRPGであり、サービスの続いている公認二次創作としては20個目の作品となっている[ii]。さて、東方ロストワードにはオリジナルのストーリーがあり、そのなかで原作キャラクターの別衣装がいくつも実装されている。それらはpixivのイラスト投稿数に影響を与えているのだろうか。以下は本稿で扱ったキャラクターたちの実装時期と別衣装の実装時期を整理した表である。

坂田ネムノは図四と、戎瓔花は図六と、牛崎潤美は図八をとを見比べてもらえばわかるが、東方ロストワードの動向は、pixivのイラスト投稿数には影響を与えていないようである。2021年12月に牛崎潤美のイラスト投稿数が増えているのは、同月が丑年最後の一か月であったためであろう。また、2022年11月に戎瓔花のイラスト投稿数が増えているのは、先述した記念日タグの影響であると思われる。

もっとも、本当に東方ロストワードがpixivのイラスト投稿数に影響を与えないのかはわからない。他のキャラクターを集計する必要があるだろう。

・pixivイラストの投稿数と東方人気投票の支援作品

図八を見てみると、2024年8月に投稿された牛崎潤美のイラストが前月や前年に比べて増えていることがわかる。この時期に牛崎潤美は原作に登場しておらず、丑年でもない。なぜだろうか。その理由として、東方人気投票というイベントが考えられる。東方人気投票は、今年で二十回目の開催となった非公式イベントである。開催時期は一定ではないものの、投票から集計、結果の公表までを開催月のうちに終えるという点は変わらない。そんな東方人気投票には、自分の好きなキャラクターの創作物を登録してアピールができる「支援作品」というシステムが存在する[iii]。2024年8月に開催された第二十回東方人気投票では、948件の支援作品が投稿された[iv]。このうち牛崎潤美の支援作品は18件であり、これは10番目に多い。なお、過去もっとも牛崎潤美の支援作品が投稿されたのは2023年9月開催の第十九回人気投票だった[v]が、図八を見てわかるように、これといった増加は認められない。一方、第十八回東方人気投票では支援作品こそ0件だったが、2022年9月のイラスト投稿数はむしろ増えているといえなくもない。支援作品の件数とpixivのイラスト投稿数は一致しないものの、個人的には、2024年8月の増加は東方人気投票の支援作品の影響を受けているように思う。

 

まとめ

以上5つの傾向を踏まえると、坂田ネムノ・戎瓔花・牛崎潤美のイラスト投稿数に与える影響力の大きさは「原作>干支・年中行事>ファン活動」であるといえそうである。

創作物を楽しむためには、そこに秘められた文脈を理解することが多少なりとも必要だ。今回集計した作品が東方Projectの二次創作である以上、その元ネタともいえる原作の影響力が最も大きいのは当然といえば当然ではある。事実、原作に登場すると2か月程度はイラスト投稿数が増える傾向にあるのだから。しかし、ただ登場するだけでは起爆剤としては弱い。匂わせよりも背景、背景よりも本人が登場すること、そして登場するだけでなくセリフを発することが重要なのではないだろうか。また、次点に続く干支・年中行事も、ファン層の大多数を占める日本人の間では、一般常識として広く知られている事柄である。それに対して「○月△日は◇◇の日」といった記念日タグは、知名度という点で上記二つと比べるとどうしても見劣りしてしまう。つまり、内輪だけでなく、より広い集団と共有できる要因であればあるほど、イラスト投稿数に与える影響力が大きいということである。

この結果は、「きっかけとなる要因が広く知られていればいるほどイラスト投稿数が増える」と言い換えることができるのではないだろうか。

ただし、上記の傾向を安易に一般化してはいけない。本稿で取り上げたキャラクターが比較的新しいこと、そして整数作品・小数点作品・書籍作品の登場回数が少ないことを考慮する必要がある。上記の傾向が正しいのであれば、原作露出の少ないアリス・マーガトロイドや少なかったフランドール・スカーレットのイラスト投稿数は、もっと少ないはずだ。また、本稿で取り上げた三人に限っては影響力の弱かった記念日タグも、他のキャラクターであれば結果は変わってくるはずだ。秘封倶楽部の記念日タグが、干支の影響力に劣るとは思えない。

また、これは筆者の妄想であり感想だが『東方星蓮船』や『東方地霊殿』以前のキャラクターは、イラスト投稿数に与える影響力の強さが「ファン活動>原作>干支・年中行事」ではないかと考えている。具体的には、既存の二次創作で形成されたイメージを元に新たな二次創作が創作されるのではないか、という妄想である。これはいわゆる三次創作ではなく、既存の二次創作の設定が、新たな二次創作を作る際に、まるで原作の設定かのように扱われるというものである。より踏み込んでいうならば、原作においてセリフの少ないキャラクターであるほど既存の二次創作を元に二次創作が作られる傾向にあるのではないか。

いずれにしても、本稿が対象にしたキャラクターのイラスト投稿数だけでは、なにかを主張するには物足りないことに変わりはない。『東方紺珠伝』以前の作品、また『東方地霊殿』前後の作品のキャラクターを対象に集計することも必要になるだろう。時間がある時に少しずつ進めていきたい。

 

おわりに

本稿では、2024年9月30日までに「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」タグをつけて投稿された一般向けのイラスト作品を集計した結果、以下の傾向があることを報告した。

①イラスト投稿数のピークは登場作品が頒布された年であり、それ以降は下降傾向にある

②原作に登場するとイラスト投稿数が増える

③同じ作品のキャラクターはイラスト投稿数の推移が近い

④初登場した年のお正月に、年賀状イラストのモチーフとして取り上げられがち

⑤記念日タグの存在は、イラスト投稿数を増やすことにつながるものの、干支や年中行事ほどの影響力はない。

 

結果、「坂田ネムノ」「戎瓔花」「牛崎潤美」のイラスト投稿数に対する影響力の大きさは「原作>干支・年中行事>ファン活動」であると言えることがわかった。つまり、東方Projectの原作に登場することがイラスト投稿数を増やす最善の方法である。身もふたもない結論ではあるが、少なくとも本稿で取り上げた三人に関しては当てはまるだろう。

しかしフランドール・スカーレットや秘封倶楽部の二人のように、本稿の結論が通用しないキャラクターがいることも確かである。今後も、他の作品のキャラクターを対象にイラスト投稿数を集計していきたい。また、より正確な集計方法を確立したい。

 

注釈

[i] 「配信開始のお知らせ」「東方ロストワード公式サイト」2024年11月9日閲覧https://touhoulostword.com/2020/04/30/74848/

[ii] 「公認PRODUCTS一覧」「東方よもやまニュース」2024年11月9日閲覧 https://touhou-project.news/products/#

[iii] 「支援作品」「東方project人気投票2024」2024年11月9日閲覧 https://toho-vote.info/support

[iv] 「第20回東方Project人気投票 人妖部門」「東方project人気投票2024」2024年11月9日閲覧 https://toho-vote.info/result

[v] 「第18回東方Project人気投票 人妖部門」「東方project人気投票2024」2024年11月9日閲覧 https://toho-vote.info/results/18

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