―1300年ほど前、藤原妹紅は共に富士山を下山していた岩笠を蹴り殺し、彼が持っていた蓬莱の薬を奪って飲んだ―。
上記のように、妹紅は岩笠を殺した犯人である。……と、されている。妹紅本人もそう言っている。しかし、これがただの強盗殺人と呼ぶには些か胡乱なニオイがするのだ。
小説版儚月抄にて、妹紅が自分の過去の話を友人である上白沢慧音に語っている。その中で、何点か気になるところがあるので、それを羅列していく。
①岩笠と妹紅以外の使者達が全員亡くなっていた。
「貴方とあの男が眠っている間にこの愚かな人間達は、壺を自分の物にしようと殺し合いを始めてしまいました」咲耶姫は言う。しかし、「私は余りの出来事に冷静に物事を考えられなかったんだ。咲耶姫は兵士達が殺し合いをしたと言ったが、今思えば現場の状態はそんな生易しいものではなかった。中には躰が焼け爛れたりしていた者もいた。壮絶な戦争が起こったか、もしくは何か得体の知れない怪物の様なものに襲われた感じだった。そんな中、私と岩笠だけ寝続けたなんて有り得ないじゃないか」と、妹紅は語り、更に咲耶姫が殺害犯ではないかと予想する。しかし、咲耶姫は基本的に『水の神』である。彼女が犯人であるならば『焼け爛れる』のはあり得ないだろう。……するとここで「その壺をこの山で焼かれてしまうと、火山はますます活動を活発にし、私の力では負えなくなってしまうでしょう。その壺は神である私の力をも上回る力を持っています。」という咲耶姫の説明が気になってくる。使者達が薬を火口に投下しようとして、それを止めようとした、もしくは薬の影響で活発・暴走化した何者か(火口の主や神?)が使者達を焼き殺したのであれば、咲耶姫はそれを水の力で助けようとしたのではないかと考えられる。……しかし、彼女を凌ぐ力を持つ薬を媒介とした存在が、寝ている者だけ殺さないことはあるのだろうか。咲耶姫もそうだ。岩笠と妹紅だけを助けられる術はあるのだろうか。全員は助けられなかったのではなく、不特定が助かったのではなく、『寝ていた岩笠と妹紅』だけ、助けることは可能なのだろうか。
②妹紅の衝動的な殺人
岩笠殺害の件について、妹紅はこう語っている。
「岩笠には何の恨みもない。それどころか助けてくれたし感謝もしている。その男から壺を奪って逃げるなんて……。」そう、岩笠にはなんの恨みも持っていなかった。だが、「しかし、私は咲耶姫の言ったある言葉が頭に付いて離れなかった。」「後先考えずに動いても永遠の時間でどうにかなりそうな魔法の言葉。 ——不老不死。」 「気が付いた時には、急な下り坂で岩笠の背中を思いっきり蹴飛ばしてたよ。そして壺を奪って逃げた」妹紅は岩笠を殺していた。薬が欲しかった為の衝動的な殺人……そう考えるのが普通だが、ここには一点おかしな点がある。それは『咲耶姫から不老不死の話を聞いた後に起こった出来事』という事だ。上記の通り、妹紅は岩笠を恨んでなどいないしそもそも感謝までしている。そんな彼を、『殺してまで』薬を奪う……奪わなければならない義務が妹紅に果たしてあったのだろうか。この時はまだ、復讐を誓っていた蓬莱山輝夜は月に帰ったと思っていたのだから、妹紅が飲む理由もない。そもそも復讐の為に不老不死になる必要はないだろう。ところで①にて2人が助かったことについて妹紅は「私たちになにかしてほしかったから助けたんだろう。」と考えていた。岩笠と妹紅だけが助かり、咲耶姫が薬の効力について語り、結果妹紅は殺人を犯した。……咲耶姫がしてほしかったのはこの事ではないのか。妹紅に何の罪もない岩笠を『殺させる』。そのためにわざわざ2人だけを生かし、態々不老不死の薬についてを語り、悪意の幻術の中に妹紅を陥れたのではないか。使者達を殺した何者かとグルであったのか、それとは本当に無関係だったのか、はたまた使者殺しは咲耶姫本人なのか。……真相は咲耶姫にしか分からないであろう。
―妖怪の山に登り、自分が不死に至った経緯を彼女に打ち明け、千三百年も登頂が遅れてしまった事、と岩笠の事を詫びる―。果たして妹紅はそれを遂げることはできたのだろうか。

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