旧作の設定は「無かったことに」なったのか

 東方Projectを考察するにあたり、『東方靈異伝』から『東方怪綺談』までの五作品、いわゆる「旧作」の存在は無視できない。その扱いはこれまでの二十年間に幾度となく検討を重ねられ、コアなファンの間ではすでにある程度のコンセンサスが形成されているとも感じる。

 ある意味では考察の初歩とも言えるこの論題を「幻想郷学講談所」の初期の作品として投稿することは、次の二十年間の足場を今、改めて踏み固めるという趣旨において、多少の意義があるように思う。

結局、旧作の設定って生きてるの?

Ⅰ.旧作という区別の正当性

 東方紅魔郷の発表から二十年以上が経った今、もはやWindows版の初期の作品すらも旧作と呼べるのではないか。そういう声を聞くこともある。
『怪綺談』までの五作品を旧作と位置づけ、『紅魔郷』以降の作品と明確な隔たりがあるとする我々の共通認識は、そもそもどのような論拠に基づいているのだろうか。
 ZUN氏の過去の発言を遡ってみると、以下のようなものが見える。

実は第6弾、って感じですが、今回のが初回作だと思っていただけるとありがたいです(^^;
そう思って内容も、今回からのオリジナルになっています。

(中略)

これからももっと出来の良い新作を開発していきます、ということで、旧作は無かったことに(^^;

――幻想掲示板 2002年09月12日 21:36

旧作は NEC PC-98 専用ゲームで、内容も今にそぐわない時代物でございます。
今回、紅魔郷との関係もとくにありません。今作から新作だと思っていただけると幸いです。

――幻想掲示板 2002年09月20日 01:30

基本的に、ストーリーに関係するキャラは全て紅魔郷以降になります。
一応、紅魔郷から全体の設定を一掃したので、新シリーズみたいなもんだと
思っていただけると(^^;

――幻想掲示板 2003年05月28日 02:22

基本的に、紅魔郷以前のものは、世界観は同じでも設定は無い物としてみた方が
これ以降の作品が楽しめる様な気がします。

――幻想掲示板 2003年08月01日 02:30

 このように、『紅魔郷』から先の作品群を新シリーズとして扱うことは他ならぬZUN氏による意向であった。
 まだ妖々夢以降の作品が発表されていない段階で「今回から」「今作から」という言い方をしていることや、「紅魔郷の時点で永夜抄までの三作品の構想が決まっていた」と時折公言している(*1)ことなどからも、過去の作品とはここで一旦の区切りをつけ、新シリーズを始めたいのだという明確な意思が感じられる。
 また、当時の「新作」であった紅魔郷に対する「旧作」という呼称もかなり早い段階から用いられていたようだ。この呼称はいつからか固有名詞のような扱いとなり、今ではZUN氏が『怪綺談』以前の作品を指して「旧作」とひとくくりにする場面は枚挙に暇がない。一応例を挙げておくと、次のような形である。

FM音源CD第二弾は東方怪綺談 ~ Mystic Squareです。
旧作では一番新しい作品なのですが、もう古すぎて思い出せない感じ。

――博麗幻想書譜 2006年12月11日 01:23

旧作に対して新作と言われる紅魔郷ももう8年前の作品。今の大学生が小学生の頃だ。旧作から数えると僕が東方を作って今年は15年目となる。

――Twitter 2010年03月01日 22:41

今日はゲームも音楽CDも一通り持ってきました。旧作とゴールドラッシュの体験も出来ます。あと輝針城、紺珠伝、天空璋の体験版ディスクが余ってるので、欲しい方に配ります

――Twitter 2017年11月12日 10:50

(*1)「紅魔郷おまけ.txt」「幻想掲示板 2004年1月4日、12月10日」など

Ⅱ.旧作はなぜ切り離されたのか

 ZUN氏が『紅魔郷』で物語の仕切り直しを行ったことはわかった。では、なぜそうする必要があったのだろう。
 紅魔郷が頒布された三日後、幻想掲示板でこのような発言が行われている。

旧作はPC98用ゲームで、はっきり言ってプレイできる環境の方が殆どないですし、個人的にもう大昔の作品で恥ずかしいので、無かったことに(^^;

――幻想掲示板 2002年08月14日 05:15

 すでにプレイ環境が整えづらくなっていたという物理的な事情に加え、「大昔の作品で恥ずかしい」というのも本音だろう。わたしも二次創作者の端くれとして、過去の作品の粗を恥ずかしく思う気持ちはよくわかる。
 また、『永夜抄』おまけテキストではリスタートの理由を次のようにも語っている。

 ただ、これだけは言っておきますが、次回は一気に規模が落ちると思い
ます。大体紅魔郷レベルまで。キャラも主要なメンバー以外は余り引き継
がないで、新しい世界を見せていく事になるはずです。これはこういう流
れですので、そういうものと思って(笑)

 怪綺談から紅魔郷で一掃したのも同じ様な理由もあります。多様さを認
める東方世界は常に膨れ上がる傾向にあるので(誰も消えないしね)、何
処かで戻さないといけないのですよ。

――東方永夜抄 おまけ.txt

 前二つの理由が直観的であったのに対し、こちらはやや創作論的な話になっている。発言時期の前後関係に鑑みても、この考えがリスタートの根本的な切っ掛けであるというよりは、むしろ紆余曲折のなかでZUN氏が見出だした「長く創作し続けるコツ」のようなものだったのかもしれない。
 ZUN氏は旧作をフリーゲームとして再公開する気持ちもあったようだが、結果的には実現していない。「何か新しい物を作っていないと精神的に調子が悪くなる」(*2)とまで言うZUN氏にとって、旧作を再び遊んでもらうために労力を費やすことは、すでに十分な意欲の対象でなくなっていたのだろう。

いやはや、旧作見られると恥ずかしいなぁ(^^;

――幻想掲示板 2002年09月28日 21:33

ちなみに旧作に関して、通販を止めた理由は恥ずかしいとかサポートが不可能とか
色々ありますが、一番の理由は、いずれフリーで公開しようかな、って気持ちが
あったので、取りあえず止めさせてもらいました(^^;

――幻想掲示板 2002年09月30日 01:09

旧作はちょい待ってください。今現在は手に入れる手段はありません。
最近、ちょっとした事が大事になってるような気がするので、なかなか身動きが取りにくく(^^;

――幻想掲示板 2003年04月09日 02:01

商業じゃない限り、旧作を移植するメリットって何にも無いですよ。
特に、このゲームは、斬新さを目指すのではなく、同じゲームを少しずつ
上塗りして作るスタンスで作っています。
大は小を兼ねているんですよ

――幻想掲示板 2003年06月03日 23:22

(旧作の移植について)最大の問題……障壁としては、僕が出したいかどうかになっちゃうんだよね最後(笑)。
嫌だなぁそんな昔のゲームと思って(笑)

――2軒目から始まるラジオ(第116回)(2:31:00~) 2020年04月28日

(*2)2006年10月16日『博麗幻想書譜』

Ⅲ.旧作は本当に「無かったことに」なったのか?

 周知のとおり、旧作に出ていたキャラクターが『紅魔郷』以降の作品で再登場した例は極めて少ない。すなわち、霊夢、魔理沙、アリス、幽香の四人だけである。『幺樂団の歴史4』のジャケットイラストに魅魔が描かれてはいるものの、ものが旧作のサントラであるだけに今回は数えないでおく。
 さて、旧作が真に「無かったことに」なったのであれば、(主人公格の霊夢、魔理沙はともかくとしても、)彼女たちが現行作品に姿を現すことは少々不可解ではないだろうか。単なるファンサービスというだけで、両者に連続性はないのだろうか?
 ZUN氏は過去にこう回答している。

3面ボスと主人公の関係は、平たく言うと
「数居る妖怪のうちの一人」と「唯一の巫女(魔法使い)」です(まんま)
ただ異なるのが、3面ボスは今回で霊夢達と3戦目ということだけです。

――幻想掲示板 2003年01月09日 02:04

「3面ボス」はアリスのことを指している。『妖々夢』の体験版が頒布されてから十日後の回答だ。
 発言内容を見て行くと、「今回で3戦目」というのは明らかに怪綺談の出来事を踏まえているとしか考えられず、「旧作のアリス」と「アリス・マーガトロイド」が同一人物であること、ひいては旧作と紅魔郷、妖々夢がすべて同じ世界上の物語であることを示唆するものである。
 アリスに関する発言は他に以下のようなものがある。

アリスは東方怪綺談(シリーズ第5弾)でも3面ボスでした。
特に関連性は無いし、思いっきり別人です(^^;ので気にしなくても大丈夫ですよ。

――幻想掲示板 2003年01月07日 01:43

>怪奇談のアリスと本当に関係ないんですか?
一応、同一人物ですが、ストーリー的には一切関係ありません。
今作のストーリー的にも、まるで重要な位置にいません。
(というか体験版に出てくるキャラは、全員ストーリーに無関係です(笑))

――幻想掲示板 2003年01月28日 00:28

体験版が3面までなわけですが、そこまでではこれ以降のステージとラスボスを予想させたくなかったんです。それで、わざと過去のキャラクターを出して、そっちと繋がりがあるんじゃないかと思わせようとしたんです(笑)。

――東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 弐 2016年06月30日

 一方で「思いっきり別人」と言ったかと思えば、他方では「同一人物」であるとも書いており、一読しただけではなかなか要領を得ない。しかし、一見矛盾しているかにも思えるこれらの発言をすり合わせていくことで、旧作世界と現行作品の正確な関係性が明らかになってくる。
 Ⅲ-①の発言から、妖々夢のアリス・マーガトロイドが怪綺談の戦いを経た「アリス」であることはほぼ疑いない。そもそも彼女は妖々夢本編の会話においても霊夢と旧知の仲であることを仄めかしており、この時点で旧作と妖々夢の世界が完全な別物であると考えるのは困難だ。
 では、「特に関連性は無いし、思いっきり別人です」はどう解釈すべきだろうか。
 Ⅲ-②、Ⅲ-③の両発言に共通するのは、「ストーリーとは無関係である」ということが殊更に強調されている点だ。つまりZUN氏は、最新の作品を遊んでもらうにあたり、旧作を知らないユーザーが十分に楽しめないという状況を避けたかったのではないだろうか。

>妖々夢の四面以降にもひょっとして過去の作品のキャラが出たり・・・?
東方には主人公以外のストーリー上キーマンとなるキャラは、毎回新キャラとなるように
するつもりです。たとえ、出たとしてもおまけみたいなもんですので(^^;

――幻想掲示板 2003年01月08日 00:05

 今後、作品内に旧作の要素が出てきたとしても、それはオマケ程度のものに過ぎず、本筋に関わってくるようなことはない。そのため、これからの作品を楽しむのに旧作を知っている必要はない。そういう考えを前提とすれば、「現行作品と旧作世界が同じ世界である」ことと、「ストーリー的には一切関係がない」ことは矛盾なく両立することができるはずだ。
 旧作が「無かったことに」なったというのは、そういう複雑なニュアンスをも内包しているのだと考えられる。そもそもこの頃のZUN氏は、自身の古い作品を事あるごとに「無かったことに」したがっていた。

私的には、紅魔郷はもう過去の作品ですでに興味も無く、一切合財無かったことにして
次の作品を創りたいところなんですけどね(^^;

――幻想掲示板 2002年10月30日 00:58

音楽、昔のものはかなり昔のものなので恥ずかしい限りですが(^^;
多分、今のものもちょっとすれば恥ずかしくなるんですけどね。
ちなみに、紅魔郷の再版が開始されました。
今度はいくつか取り扱い店舗も増えてますので、宜しければ是非是非 m(__)m
でも、紅魔郷もすでに恥ずかしいです。出来れば無かった事に(笑

――幻想掲示板 2002年11月11日 01:01

旧作は無かったものとして見ていただきたいなぁ(^^;
実際、ゲームは新作ほど良くなっていきます。逆にいえば昔の程悪くなってます。
(妖々夢が完成したら、紅魔郷は無かった事にしたいと思います(^^;)
その為、移植はまず絶対にないと思ってください。
基本的にはわざわざ昔のを遊ばなくても、次から次へと新作を作りますので大丈夫です(本当か?)

――幻想掲示板 2003年01月12日 02:31

うー。再販は再プレスに十分なだけの再発注があれば行うかもしれません。
決して再販は、いじわるでしてない訳ではないんですよ^^;
ただ、紅魔郷ももうそろそろ無かった事にしてもいい時期なのかも・・・

――幻想掲示板 2003年10月28日 01:49

>それにしても。紅魔郷「なかったことに」発言は少々ショックでした。
今すでに妖々夢も無かった事にしたいところなんですが^^;
去年の今頃にも、紅魔郷は無かった事に、って言ってた気が。
自分の中では、実はもうとっくに無かった事に(笑)
これは、私が同人で創る理由が「私が創りたいゲームを創る」という事なので、
次を創り始めてしまえば、過去の完成品はあくまでも過去です。
自分の創作理由からも外れてしまうのですよ。

――幻想掲示板 2003年10月30日 02:21

>ZUNさんは「東方紅魔卿」という作品が「嫌い」なんでしょうか。
いえいえ、まさかそんな。嫌いな物出しませんよ^^;
好きだからこそ、紅魔郷、妖々夢は、これからの作品の材料になるのです。(設定もゲーム性も)
材料にする以上、過去の作品はこの状態で完成であり、成長はさせないのです。
ある意味、私にとって東方は、東方の二次創作の様な物です。
材料がまだ生きていては、踊り喰いになってしまうのです(注意:踊り喰いは悪くない)
だから、「無かった事に(亡くなった事に)」、なんです。
全てのユーザーの中で確実に私が、紅魔郷も妖々夢も一番大好きな人でしょう(笑)

――幻想掲示板 2003年10月31日 00:24

>出来上がるのはあくまで「紅魔郷2」「妖々夢2」であって新作ではありえないという事なんでしょうか。
そうではなくて、続編は発展や成長させたものとも言えます。
材料から完成品になることは、決して成長では有りません。
木から椅子を作るように、材料を含みながら、全く別の物に生まれ変わる事。
これは材料としての存在を消す(無かった事にする)事で、新しい作品になると言う訳なのです。
最新作だけ遊んでも楽しめるし、過去の作品も捨てていない・・・。理想ですが。

――幻想掲示板 2003年11月03日 00:49

 以上の発言から窺えるとおり、ZUN氏の使う「無かったことに」という言葉はかなり特殊な意味合いを含んでいるようだ。その真意は少々難解であり、少なくとも額面通りに受け取っては危険である。
 ZUN氏はこれまで作曲した楽曲のなかで気に入っているものを訊かれた際、「最新の曲を気に入ることが多い」と答えた(*3)。また、つい昨年の講演会(*4)でも、「初めてプレイする作品には最新作をオススメしたい」と答えている。「最新の作品ほどより良いものである」という考えは、ZUN氏のなかで一貫して生き続けている信念のようなものらしい。

(*3)2013年09月27日『19th Anime Weekend Atlanta』
(*4)2023年02月25日『東海高校サタデープログラム「幻想巡礼 ~Electronic Magician.」』

Ⅳ.旧作と現行作品の共通設定

 Ⅲに挙げたアリスの例だけでなく、旧作世界と現行作品の連続性を示す発言はいくつか存在する。その最たるものが次である。

設定は、基本的に最新作が一番細かく、正しいものと思ってください。
>巫女さんの使ってる神仙術も、悪霊の使う怪しい術も、全て同じ力。
>幻想郷に警察が存在する(以上、夢時空)
>博麗神社付近には相変わらず魅魔や幽香などがいる。
もちろん特に変化はありません。
ただ、ゲームの中で語っていない設定以外が存在しない訳も無く、ゲーム中では
その内のほんの一部が表面化しているだけだと思ってください。

――幻想掲示板 2003年08月01日 02:30

 タイミングとしては『妖々夢』の製品版が発表される二週間ほど前にあたる。この発言によって、旧作の設定の一部が紅魔郷以降まで引き継がれていることは確定されたと言って良い。

時間的な流れでは前作から大して経ってなく、年齢も変化ありません。

――東方紅魔郷 おまけ.txt

 こちらは博麗霊夢の紹介文。『紅魔郷』のストーリーが『怪綺談』から一年以内の出来事であるとして、両世界の連続性を示唆している。ただし、ここで言う「前作」を霊夢がゲスト出演した『秋霜玉』のことと解釈することも不可能ではないのだが、やはり正式なナンバリングである怪綺談のこととして読むほうが自然なように思う。

どうしたんだろうねぇ……。亀って結構長寿だから生きてはいると思う。

(中略)

たぶんあの神社の横の池でひっそり暮らしてるんじゃないかと

――明治大学学園祭企画「東方の夜明け」 2004年10月30日

亀は長生きなんで、死んではいない・・・ぐらいの認識でいいかと。

――一橋大学シンポジウム「幻想伝承~創作の継承と終着~」 2007年11月03日

 ③、④はともに、旧作キャラの一人(一匹)である玄爺について尋ねられた際の回答。会場での突発的な質問に対してアドリブが含まれている可能性があるため、公式設定としての信頼性は多少欠くが、「今も健在である」という点は信じていいはずだ。
 また、玄爺と言えば、『獣王園』の霊夢が発した「空飛ぶ亀……う、なんか古の記憶が」という台詞も我々の記憶に新しい。言及の意図としては単なるファンサービスの域を出ないだろうが、現在の博麗霊夢と旧作の博麗靈夢が完全な別人であったとすれば出てこない台詞だろう。

 2022年の生放送(*5)では白蓮の「魔神復誦」が神綺の弾幕を模していることに触れた。そのときに訊かれた「今後の作品もちょっと旧作と絡めてこうみたいな、あるんですか?」という質問に対しては、「あぁでも、ちょくちょく絡んでんじゃないの?」と答えている。
 同放送の終盤にスタジオで『東方幻想郷』をプレイした際には、「ボスはあの、魔理沙がパクったやつもあるから」という発言が飛び出した。これはWindows版以降の作品で魔理沙が使う「マスタースパーク」が、旧作の幽香が使っていた極太レーザーを真似たものであるという意味のはずだ。この設定ははるか昔からファンの間で考察されていた、いわゆる二次設定に過ぎなかったのだが、(わたしの知る限りでは)このとき初めてZUN氏の口から明言されたものである。

(*5)2022年01月28日『東方ステーション #29 博麗霊夢特集』

Ⅴ.旧作と現行作品の矛盾

 Ⅲで述べたとおり、現在、旧作から続投されているキャラは四人しかいない。今後の作品で新たな旧作キャラが復活することはあるのだろうか。以下のような発言が参考にできる。

Q:旧作のキャラクターをシリーズに復活させる考えはありますか?
ZUN:無いとは言えない、っていうのが答えかな。

――19th Anime Weekend Atlanta 2013年09月27日

そんなに今の設定とは合致してないけど、あのころはまだ昔のキャラも出せたかなって。恐らく昔のキャラはそろそろ隠居して、今はいろいろなことを暖かく見守ってるのかなって思ってます。

――東方外來韋編 Strange Creators of Outer World. 参 2017年03月02日

Q:旧作キャラの復活はありますか?
ZUN:あるともないとも言えない。そういう質問は要望として受け取ることにはします

――東海高校サタデープログラム「幻想巡礼 ~ Electronic Magician.」 2023年02月25日

 ②を読んだ限りでは旧作キャラの復活は期待できそうにないものの、①や③では可能性を完全否定まではしていない。これはおそらく「予定は無いが、絶対に出さないという拘りもない」というだけの、本当に言葉どおりの意味であって、それ以上の特殊な意図は隠されていないと見ていいだろう。
 注目してほしいのは、「そんなに今の設定とは合致してないけど」という部分である。
 ②は風見幽香に関する言及だ。彼女は旧作のキャラと同一人物であるにもかかわらず、設定は合致しない部分があるらしい。なんとなく、Ⅲ-②の「思いっきり別人です」とも通じる雰囲気がある。
 ここまで散々、「旧作と現行作品が同じ世界である」という根拠を並べてきたが、実はそれは一つの側面でしかない。ZUN氏はこれらの発言と別に、「旧作と現行作品の設定は完全に同一ではない」ということも明言している。

PC-98とWindowsのゲームを並べちゃうと、ストーリーに少し矛盾が出るので。
でも何が公式設定かって考えるんであれば、最新のゲームを参考にしたいと思います。

――19th Anime Weekend Atlanta 2013年09月27日

明確に繋がってるってしちゃうと矛盾が起きちゃったりするかもしれない。なのでふんわりと繋がってる世界観のつもり

――東海高校サタデープログラム「幻想巡礼 ~ Electronic Magician.」 2023年02月25日(*6)

 身も蓋もない言い方をすれば、これが本考察の結論になる。
 勘違いをしてはいけないのが、これまでに見てきた「同じ世界である」という旨の発言と、「矛盾が生じる」という発言、そのどちらも間違いではなく、両立させて考えなくてはならないということだ。
 妖々夢で登場した「アリス・マーガトロイド」が、『怪綺談』での二度の戦いを経ていることはほぼ間違いない。博麗霊夢の古の記憶のなかに、玄爺という空飛ぶ亀がいることもほぼ間違いない。幻想郷には警察(小兎姫)がいるし、博麗神社付近には相変わらず魅魔や幽香などがいる。しかしそれらの設定は、いずれも重視されてはいないのだ。
 ZUN氏が旧作の物語を「無かったことに」した理由については、すでに三つの要因を挙げた。しかし、本当にそれだけだろうか。

スペルカードシステムは、3年ほど前から暖めてたのですが、そろそろ他に
先越されそうな気がして、今回作っとくことにしました。
つまり、紅魔郷自体、このシステムを入れたいが為に創ったものです。

――幻想掲示板 2002年11月25日 01:23

 ZUN氏が『紅魔郷』の開発に乗り出すことになった根底には、「スペルカードシステム」の発明があった。弾幕に名前を付けて個性を表現するというこの発明は、そこに弾幕を撃つキャラクターがいなければ成り立たない。そこでZUN氏は弾幕のためにキャラクターを作り、設定を作り、ストーリーを作った。それが東方紅魔郷というゲームなのである(*7)。
 そのような経緯で生み出された世界が、果たしてそれ以前に作られた作品と無矛盾に接続できるだろうか。いや、そもそも無矛盾である必要があるのだろうか。
 ZUN氏は『紅魔郷』を旧作の延長線上に作った。しかし、そのすべてを正確に引き継いだわけではない。新たなストーリーを組み立てるにあたって障害となりうる設定、より良いものに置き換えるべきと判断された設定は、ZUN氏による「一掃」の対象となったと考えるべきだろう。
 最後にもう一つ、参考資料を提示してこの章を終える。

基本的に旧作は無視で。

幻想郷自体の設定はそんなに変化はありませんが、中に出てく
る人物は主にゲーム用に用意されたキャラ達です。

旧作は怪綺談で終わっている為、紅魔郷以降の話とは繋がりが
ありません。当然、不要な設定などは切り捨てて新しい物を取り
入れます。

旧作を考慮に入れられると、これ以降の創作が出来なくなるため、
旧作は旧作で完結、東方は紅魔郷以降のみと考えて創作しています。

そのため、旧作とは当然矛盾してくると思いますが、この場合は
常に紅魔郷以降の設定のみが生きています。旧作の設定を考慮に
入れたために現在の東方の設定が捻じ曲げられることは一切あり
ません。紅魔郷以降だけなら矛盾は無いと思いますが……^^;

まぁ、旧作は東方のプロトタイプだと思ってください。
設定は同じだけどストーリーは別物です。
(世界が変わってもアイテム名や魔法名とか同じなRPGの
シリーズ物みたいなもんで)

ほうっておけば旧作は消えて無くなる予定なので、気にせず新し
い東方を創作しています。二次創作や考察も旧作を引っ張り出し
て紅魔郷以降を表現しても、設定は同じなので結びつく所も有る
かもしれませんが、まず上手くいかないと思うので(私が考慮に
入れてない為)これはやらないようにお願いします。

伏線とか一切張っていないし、これからも旧作のキャラも出す気
はありません。(アリスは特別で新作用のキャラです)

――『まよひがねっと』日記 2004年03月08日

 これは2003年~2004年に存在した東方ファンサイト『まよひがねっと』の管理人が公開していたZUN氏からの回答だ。管理人本人が「旧作アルティメットアンサー」と称しているだけあって、旧作の設定問題に関して完全と言ってもいい回答が与えられている。とは言え、個人へのメール回答という裏付け不能な情報ソースであるため、ここでは紹介するだけに留めたい。
 この情報の信頼性については後日、また別の考察を投稿したいと考えている。

(*6)この発言は「旧作とWindows版について」の話だったとする証言と、「音楽CDとSTGについて」の話だったとする証言とが入り混じっている。しかし、その後の議論の結果などを見るに、「旧作とWindows版について」であった可能性が高いと思われる。当時の様子はTogetterに残っているので参照してほしい。
(*7)2018年05月20日『第七届北京大学动漫文化高端讲座 博丽神主ZUN』

Ⅵ.結局、旧作の設定って生きてるの?

 旧作の設定はたしかに今も生きている。しかし、すべてがそうというわけではない。旧作キャラは再登場するかもしれないし、しないかもしれない。すべてはZUN氏の匙加減一つだ。
 思うに、旧作の設定を基にして考察を膨らませるという行為は、サポートの終了したOSを使い続けるようなものではないだろうか。それは自己責任の世界であり、幻覚度の上昇も避けられない。
 そんななかでわたしが注目したいのは、Ⅰ-④の「世界観は同じでも設定は無い物としてみた方が~」という文言である。表面的な「設定」は書き換えられた箇所がある。しかし二つの世界の「世界観」は通底しているのだ。この微妙な概念の輪郭を上手く捉えることができれば、我々は東方Projectの神髄により接近できるのではないだろうか。
 なお、わたしはまだその域まで達していない。

コメント

  1. torihen より:

    ZUNさんも人間なので,いろいろ設定を思いつく中で矛盾点が出てきて,昔のものより新しい気に入った方を後から採用してるのかもしれないですね。創作あるあるな気もします。
    Win作品の中でも設定の矛盾って時々出てるイメージがあるので(伊吹瓢とか),後出し設定が優先されるのは旧作に限らない気もします

    • takenoko より:

      コメントありがとうございます。設定に不可解な点が一つも無いとはもちろん言いませんが、伊吹瓢に関しては特に矛盾は無いと考えているので、その辺りもいずれ投稿したいところですね。