スモーキングドラゴンから広げる一考察

注意:この記事は七夕坂夢幻能のネタバレを含みます。承知の上、お読みください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七夕坂夢幻能がついに委託発売されました。秘封には比較的疎い自分でも「秘封って…面白!!…」となるような素晴らしい作品でしたね……!

 というわけで、今回はその中の1シーンで感じたことを記事にしてみました。七夕坂も夢幻能もどこいったんだよって内容になっているので、そういう話を期待していた方ごめんなさい。でも多分作品のテーマ的な話は他の方の感想の方が明快だと思うの。

 一ヶ所から広がった取り留めのなさ過ぎる話ですが、お付き合いいただけるのなら幸いです。

靄の中の幻

 今回取り上げたいのは、七夕坂夢幻能トラック4「スモーキングドラゴン」の部分のストーリーです。この場面は、怪奇現象の前触れとして煙のような靄が発生するというシーンになっています。そしてその後、異界を示す扉が現れるというわけですが、ここからはある一つの典型的文脈を読み取れると思います。それは、「神秘的存在が現れるときの条件」としての靄・霞状のもの、という考え方です。

 三月精第三部第九話で存在が語られた、蜃気楼を見せる妖怪「蜃」。その正体は貝であるとされていますが、それは何故なのかを考えてみると、現実の貝の生態との関わりが浮かんできます。作中では、蜃の幻の見せ方について「幻を見せる息を吐く」と表現しています。貝の吐く息、つまりそれは貝が精を放出するイメージと重ねられています。水中に広がる靄状のものを見て、人々はそれを幻と結びつけたのです。逆に言えば、幻が現れる場所として相応しいのは、もやもやとしたもの中であると考えられていたのです。

 あるいは、このような話もあります。人型の幽霊が表現されるとき、日本では足の無い姿で描かれることが多いです。その理由について、一説には「反魂香を焚いて煙の立ちこめた空間の中に現れたヴィジョンが元となっているから」と言われています。彼岸の存在が現れる際にも、視界がぼやけた状態というシチュエーションは共有されていたように思われます。

 このように、靄の中に不思議な存在が現れるという状況は、類似するものが多いです。それらを踏まえてこのストーリーを見てみると、境界の向こう側、そこへと繋がる扉の出現には、靄は欠かすことのできない演出であったかのように感じられます。

 一方で、少し視点を広げてみたいと思います。靄の中に現れる存在、これは龍自体にも当てはまることと言えないでしょうか。龍が主題となっている絵画では、龍は雲気とともに描かれることが多いです。元々は龍が雨、ひいては雨雲を操るという話から来ていると思われますが、そのような点から雲の中に現れるように描かれた龍の絵画というのも少なくありません。このような龍の姿も、靄の中に現れる神秘として見ることはできないかと思うのです。

 厳密に言うなら、龍が吐く煙と龍を隠す雲とでは違いがありますが、スモーキングドラゴンという曲名にはこうしたイメージが託されていたのではないかと、七夕坂のストーリーを通じてふと考えていました。

靄と鬼

 ここからはより幻覚度の高い解釈をおまけでしたいと思います。

 東方には、自らの姿を霧状に変化させるキャラクターが登場しています。大江山の鬼、伊吹萃香です。彼女の能力は「密と疎を操る」ものとされていて、自身の密度を操作することによってその変化を可能にしています。

 では、この能力は何に由来したものなのでしょうか。鬼と密度……中々繋がりを見出すのは難しそうです。しかし、鬼と霧で見てみると伝承の中にも見ることが出来ます。ぱっと出てくるところでは、明日香村の鬼の伝説や藤原千方の隠形鬼などが挙げられます。

 ここで一つの仮説を立ててみたいと思います。萃香の密度を操る能力というのは、霧化の能力を前提として用意されたのではないでしょうか。

 この視点に立ったとき、もう一つ面白い事が考えられます。近年の作品では、鬼が隠されたものを司る存在であることが度々触れられています。酔蝶華の伊吹瓢の回なんかが特にそれでした。さて、今まで挙げてきたものを見返すと、蜃気楼は若干外れますが、幽霊、そして龍は靄によって身体を隠されていることがありました。靄は、隠すという動作において重要な役割を果たしています。もし萃香が霧という事柄を軸に作られたキャラクターだったとしたら、それは鬼が隠されたものを司ることと繋がっているのではないでしょうか。

 

 というわけで、「靄状のものには何か一連の意味があるんじゃないか」というお話しでした。より妄想を膨らませるなら、「向こう側」を演出する靄には、境界との関わりがでてきます。そんな中で、紫と萃香が旧知の仲であること、今回見てきた「龍」が幻想郷の最高神であること、win版第一作である紅魔郷に霧が用いられたことなど、感じ入ってしまう部分がありはしないでしょうか。最近こんな暴想がどんどん増えてく……

※暴走した妄想のこと

 スモーキングドラゴン、元々かなり好きな曲でしたが、七夕坂を通してからより感慨深い一曲になりました。今後の秘封でも、こんな曲の楽しみ方をしていけたらいいなと思う筆置き間際でした。

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