香霖堂のドアベルの研究

 魔法の森の入り口に佇む古道具屋、香霖堂の玄関にはドアベルが付いている。
 来訪者があるたびに「カランカラン」と鳴ることでお馴染みのあのベルだが、実は驚くべき秘密が隠されていたのだ。

第一部

 以下に各話でのドアベルの音と、扉を開けた人物を列挙する(「――」や「。」は省略)。

第04話 カランカラン(咲夜)
第04話 カランカランカラッ(霊夢)
第06話 カラン、カラン、バン!(魔理沙)
第07話 カランカラン(魔理沙)
第08話 カラン、カラン(霊夢)
第09話 カラン、カラン(霊夢)
第11話 カランカラン(魔理沙)
第11話 カランカランカラッ(霊夢)
第11話 カランカラン(不明)
第12話 カランカラン(魔理沙)
第12話 カランカラッ(霊夢)
第12話 カランカラン(魔理沙)
第13話 カランカラッ(霊夢)
第13話 カランカラン(魔理沙)
第14話 カランカラン(魔理沙)
第14話 カランカランカラン(妖夢)
第14話 カランカラン(咲夜orレミリア)
第14話 カラン(紫)
第14話 カランカラッ(霊夢)
第15話 カランカラン(魔理沙)
第15話 カランカラッ(霊夢)
第15話 カランカラッ(霊夢)
第16話 カランカラン(魔理沙)
第16話 カランカラッ(霊夢)
第16話 カランカラン(魔理沙)
第17話 カランカラッ(霊夢)
第18話 カランカランカラン(咲夜)
第19話 カランカラッ(霊夢)
第21話 カランカラン(魔理沙)
第23話 カランカラッ(霊夢)
第25話 カランカラン(魔理沙)
第27話 カランカラン(霊夢or魔理沙)

 第一部で香霖堂のドアベルが鳴った回数は32回。内13回が霊夢、12回が魔理沙、霊夢or魔理沙が1回と、この二人で全体の八割(計26回)を占めている。残りは咲夜が3回(第14話は従者である咲夜が開けたものと推定)、妖夢が1回、紫が1回、不明(狐?)が1回だ。
 今回はこの中でも霊夢と魔理沙がドアを開けた際の音に焦点を絞りたい。
 霊夢がドアを開けた際の音は以下のとおり。

第04話 カランカランカラッ
第08話 カラン、カラン
第09話 カラン、カラン
第11話 カランカランカラッ
第12話 カランカラッ
第13話 カランカラッ
第14話 カランカラッ
第15話 カランカラッ
第15話 カランカラッ
第16話 カランカラッ
第17話 カランカラッ
第19話 カランカラッ
第23話 カランカラッ

 続いて魔理沙が開けた場合。

第06話 カラン、カラン、バン!
第07話 カランカラン
第11話 カランカラン
第12話 カランカラン
第12話 カランカラン
第13話 カランカラン
第14話 カランカラン
第15話 カランカラン
第16話 カランカラン
第16話 カランカラン
第21話 カランカラン
第25話 カランカラン

 おわかりいただけただろうか。
 霊夢が鳴らすドアベルの音は第8話、第9話(「夏の梅雨堂」前編、後編)を除きすべて「カランカラッ」、及び「ッ」で終わっており、逆に魔理沙の音はすべて「カランカラン」に類する。「ッ」で終わる音は一度も無いのだ。
 序盤に多少の例外が含まれるとはいえ、この規則性が偶然とは考えにくい。ZUN氏は明らかに霊夢と魔理沙でドアベルの音を書き分けている。あるいは、ZUN氏の持つイメージが無意識のうちに反映されている。どちらにせよ、霊夢と魔理沙の性格や所作がドアベルの音に表れていると見て間違いないだろう。
 ただし、この場で具体的な解釈を一つに絞ることはしない。わたしの第一印象では「カランカラン」のほうが大人しく聞こえ、魔理沙の育ちの良さが出ているのではないかなどとも感じたが、恐らくはいくらでも他の解釈が可能だろう。各々の想像に任せたい。
 また、これはさすがに偶然かもしれないが、魔理沙の開閉音が唯一「カランカラン」ではなかった第6話、霊夢の開閉音に「ッ」が付かなかった第8話、第9話は、いずれもドアを開けた人物が雨に降られて濡れていたという共通点がある。この三度以外に来訪者の体が濡れていたケースは一度も無い。

 以上のことから導ける一つの結論として、霊夢と魔理沙が共に香霖堂を訪れ「カランカラン」とドアベルが鳴った第27話は、魔理沙が先にドアを開けていた可能性が高い。

第二部

 この規則性は香霖堂第二部でも健在なのだろうか? 同様に列挙してみる。

第01話 カランカラン(菫子)
第02話 チリンチリン(華扇)
第02話 チリンチリン(菫子)
第03話 チリンチリン(文)
第03話 チリンチリン(霊夢or文)
第05話 チリンチリン(菫子)
第06話 チリンチリン(華扇)
第06話 チリンチリン(霊夢)
第07話 チリンチリン(魔理沙)
第10話 チリンチリン(霊夢)

 音が変わってる!!!
 なんと香霖堂のドアベルの音は第2話「オカルトを知り尽くす者」以降、「カランカラン」から「チリンチリン」に変わっていたのだ。
 第一部ではドアベルの形状や性質に触れる言及が無かったが、第二部では〝入り口の鈴〟(第8話)、〝来客を知らせる鈴の音〟(第10話)といった文章があり、鳴っているのは間違いなく〝鈴〟である。

「カランカラン」が最後に確認された第1話「孤独にして孤高の古道具屋」は2015年9月30日発売の東方外來韋編に掲載された。菫子いわく作中では夏休みの期間中とのことなので、ザックリ2015年(第130季)の夏頃までは件のドアベルが健在だったことがわかる。
 続く第2話「オカルトを知り尽くす者」が掲載されたのは翌2016年6月30日発売の外來韋編。こちらも季節は夏のようで、菫子が幻想郷に現れるようになったのが〝去年の今頃〟と言われていることから、作中の時期は2016年(第131季)の夏頃。香霖堂のドアベルはこの一年の間(第130季夏~第131季夏)のどこかで現在の鈴に取って代わられたようだ。
 この期間に何があったかはわからないが、簡単に仮説を立ててみた。

①『鈴奈庵』と混ざった説

『東方鈴奈庵』を読むと、鈴奈庵への来店時にも「チリンチリン」という鈴の音が鳴っていることがわかる。香霖堂第二部は掲載の間が年単位で空いていたことから、うっかりドアベルの音を間違えたのではないか。
 ただし仮にそうであったとしても、続く第3話~第10話までのすべてもミスだということにはならない。第8話や第10話で明確に〝鈴〟と書いていることからも、ZUN氏自身がこの変化を自覚しており、「香霖堂のドアベルは鈴に変わった」というのが現在の公式設定だと捉えるべきだろう。

②意図的に変更された説

 理由はわからないが、ZUN氏が意図的にドアベルの音を変えた可能性も十分にある。それは心機一転のイメージチェンジが目的かもしれないし、鈴奈庵を書いているうちに鈴の音が気に入ったからかもしれない。
 一つ興味深い事実がある。香霖堂の旧ドアベルが最後に確認された第130季夏の少し前、第130季春といえば、『鈴奈庵』第26・27話「狐狗狸さんは桜と共に散りぬ」で本居小鈴が香霖堂を訪れたタイミングなのだ。もしかすると、その後も霖之助と小鈴の交流が続いており、香霖堂のドアに鈴を付けるような裏イベントが起こっていたのかもしれない。そう想像してみるのも面白いのではないだろうか(部分幻覚度7)。

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