「私家版 百鬼夜行絵巻最終章補遺」の元ネタについて考える

東方鈴奈庵 ~Forbidden Scrollery. 第5話 「私家版 百鬼夜行絵巻 後編」に登場する「私家版百鬼夜行絵巻最終章補遺」の描写から、その元ネタを考察する

禍々しき百鬼夜行絵巻

現在様々に残る百鬼夜行絵巻は、異形のものの恐ろしさだけではなく器物や動物の化け物が織りなす滑稽さも併せ持ち、決して暗い雰囲気だけではないが、

作品内で魔理沙が「禍々しい」と表した通り、「私家版 百鬼夜行絵巻最終章補遺」(以下、「私家版百鬼夜行絵巻」)は異様な雰囲気を放っていた。

その絵巻の特徴は以下の通りである

  • 墨絵のような黒く滲んだ描写
  • 黒い雲と雷鳴
  • 黒い雲から飛び出す異形の手
  • キバが生えた黒い化け物の顔

この特徴から、元ネタとなりそうな絵巻を調べた

 

百鬼夜行絵巻の最後

現在の百鬼夜行絵巻は、現存する最古の百鬼夜行絵巻(大徳院真珠庵・所蔵、通称:真珠庵本)をはじめとして系統・系譜があり、特に顕著なのがその絵巻の最後である。

真珠庵本をふくめ、多くは最後に朝日、もしくは火の玉(仏の火とも)が空に出現し、それに恐れをなして逃げ惑う妖怪のさまで終わる。

真珠庵本は器物が化けた付喪神が多いこともあり、これを「私家版百鬼夜行絵巻」の元ネタとする向きもあった。

 

異色の最後を遂げる絵巻

2007年、この絵巻の最後の系譜に入らない絵巻が見つかった。

「百鬼ノ図」(国際日本文化研究センター所蔵)※1

参考文献にリンクを置くので、ぜひ絵巻の最後を見ていただきたい。

「私家版百鬼夜行絵巻」の特徴をほぼ全て網羅している(牙が生えた化け物はいないが、狸に似た黒い化け物が大きく描かれている)

私はこれを、「私家版百鬼夜行絵巻」の元ネタと考えている。

 

なぜ幻想郷に?

この「百鬼ノ図」が見つかったのは2007年と割と新しく、類似の絵巻が現在他になく、それまでは古書店で眠っていたことを思うと、幻想入りしていてもおかしくない。(メタ的に言えば、発見後ニュース※2 や関連書籍※3 も発行され、神主が知ってもおかしくない)

また「百鬼ノ図」は「鳥獣戯画」の影響も受けているとみられ、「私家版百鬼夜行絵巻」を見つけ手に入れようと模索し、生まれたばかりの付喪神を引き連れたのがマミゾウなのも関連がありそうに思う(動物を擬人化した鳥獣戯画と、狸の妖怪が人の形をとっているのは厳密には違うものかもしれないが)。前述した通り、「百鬼ノ図」の最後に登場する黒く大きい化け物はたぬきのようにも見える。

「百鬼ノ図」自体が、またその絵巻の最後に出てくる禍々しい存在たちが現在も謎に包まれたままであり、非常識が常識となる幻想郷でその影響を振り撒いていているのだろうか。

参考文献

※1 百鬼ノ図|日文研デジタルアーカイブ

[百鬼ノ圖]

※2 鳥獣戯画影響の妖怪描く/日文研の「百鬼ノ図」|四国新聞社

鳥獣戯画影響の妖怪描く/日文研の「百鬼ノ図」 | 四国新聞社
烏帽子をかぶったカエルに、坊さんの格好をしたトラ−。

※3 百鬼夜行絵巻の謎/小松和彦・著|集英社新書

<ヴィジュアル版> 百鬼夜行絵巻の謎 - 集英社新書
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