前書き
先日、以下のような記事が投稿されていた。
【吸血鬼異変概論】takenoko氏
https://gensoukoudan.net/archives/3066
吸血鬼異変の首謀者は誰か、発生時期は何時と考えられるかなど、タイトル通り吸血鬼異変の概論となる記事である。
その中で、東方求聞史紀・十六夜咲夜の項目にある記述を根拠の主として「吸血鬼異変の首謀者≠レミリア・スカーレットである」という説が提示されている。
当記事にその可能性を否定する意図はないが、私の中で一つの可能性が思いついたため記事としてまとめたいと思ったのが本ページとなる。
※当記事は上記の記事を前提としているため、未読者は先に読んでもらえると嬉しいです。面白いので。
吸血鬼異変の首謀者≠レミリア論
全容は前記事を参照してほしいが、要点を引用する。
後に紅魔館は館ごと幻想郷に移転する事になったのだが、異様な環境の幻想郷に違和感(*6)を感じ、最初は吸血鬼にも幻想郷の人間にも抵抗を感じていた。
*6 既に吸血鬼に対して奇妙な契約が交わされていた。詳しくは吸血鬼の欄を見よ。
――ZUN『東方求聞史紀』一迅社,2006,p.124
注釈に注目してほしい。これによれば、レミリアたちが幻想郷を訪れたときには「既に吸血鬼に対して奇妙な契約が交わされていた」と読め、吸血鬼異変はレミリアが現れる以前の出来事であったと断定できる。「奇妙な契約」が指す内容の不確かさについても、「吸血鬼の欄を見よ」との誘導から吸血鬼異変時に交わされた件の契約であることが疑いない。
この文章の本文は咲夜の過去を巡る阿求の想像に過ぎず、「異様な環境の幻想郷に違和感を感じ~」といった描写は必ずしも事実ではない。しかし、紅魔館組の来訪と吸血鬼異変との前後関係は咲夜の過去を推測するための前提となる部分であるため、阿求による創作の介在を疑う必要が無い。
――前記事より引用。
・「吸血鬼異変」の際に吸血鬼は契約を結んだ。
・咲夜が紅魔館ごと移動してきたときには、既に吸血鬼との契約が存在していた
→よって、レミリアが幻想郷にやって来たのは吸血鬼異変の後である。
とする論である。
阿求の想像・創作とされる部分への解釈は人それぞれだと思われるものの、この論に破綻は無いし、十分以上に有り得る話である。
しかしながら、少々違和感を覚える点があった。前記事にというよりも、原作中の求聞史紀テキストにである。
咲夜の過去(想像)に関する違和感
求聞史紀の十六夜咲夜の頁では、前述の通り(阿求の想像として)咲夜の過去が語られている。
要約すると以下の内容となる。
1.能力に自信を持っていた咲夜(このときは十六夜咲夜という名前では無かった)は、吸血鬼を仕留められると思い旅に出た。
2.紅魔館に辿り付いたが、幼い吸血鬼に返り討ちに遭う。
3.吸血鬼は新しい名前(十六夜咲夜の名)を与え、改名によって運命を正反対に変えた。
4.咲夜は吸血鬼の僕となり、側近にもなった。
5.後に紅魔館ごと幻想郷に転移することになった。
6.転移後、咲夜は異様な幻想郷に違和感を覚え、吸血鬼と幻想郷の人間の両方に抵抗を感じた。
7.その後、自分が倒せなかった吸血鬼が幻想郷の人間に倒されたことをきっかけに心を開くようになった。
――ZUN『東方求聞史紀』一迅社,2006,p.123-124から抜粋、要約。
このうち、5-6が先に引用した内容となる。
確かにこれを見ると、レミリアと咲夜と紅魔館が転移してきた際に、既に幻想郷と吸血鬼に契約が結ばれているように見える。
一方、以下のような違和感を覚えないだろうか。
・レミリアと吸血鬼異変を起こした吸血鬼が別妖怪の場合、契約を交わしたのはレミリアではない。
→レミリア(とフラン)は幻想郷と契約を結んでいないことになる。
・求聞史紀に記された想像の中で、咲夜は吸血鬼にも幻想郷の人間にも抵抗を感じていた。
→既にレミリアの僕となっていたのに、どこぞの知らない吸血鬼が結んだ契約を理由として抵抗を感じていたことになる。
前者に関しては、かみ合わせが悪いようにも見えるものの矛盾とは言えない。
求聞史紀から見て後年の描写を含めれば、レミリアは大分話が通じる妖怪であることが見て取れるし。幻想郷の概要と事情を説明すれば契約など無くともむやみに幻想郷の人間を襲わないと解釈することは十分可能だろう。また、特別描かれていないだけで別途契約を結んでいる可能性は排除できない。
しかし後者に関しては少しばかり解消できない違和感である。文脈から言って、文内で使用された「吸血鬼」が箇所によって別の存在を差すとは考えにくい。そもそも冒頭に挙げた記事に関係なく、よくよく読み返してみると該当部分の文章には違和感がある。レミリアと咲夜と紅魔館が一緒に幻想郷にやって来たのなら、「既に結ばれていた吸血鬼の契約」を異様と感覚することは、吸血鬼異変の黒幕がレミリアでもそうでなくても少々話の流れとしておかしく思えてならない。
レミリア・スカーレット、吸血鬼異変後一時帰宅説
前項で述べたおかしくも思える描写であるが、一つの想像で解消することができる。
それは、吸血鬼異変後にレミリアが一度外の世界に帰ったとする想像である。
時系列はこうだ。
1.レミリア、幻想郷に来訪。吸血鬼異変を起こす。
2.レミリア、負ける。契約を結んだあと外の世界の屋敷に帰宅。
3.咲夜(と後に名付けられる少女)、紅魔館へ。レミリアに返り討ちにされる。
4.咲夜、レミリアの僕&側近になる。
5.紅魔館、レミリア・咲夜(他紅魔館メンバー)、幻想郷に転移。
6.咲夜、(吸血鬼異変の際に結ばれていた)レミリアと幻想郷の契約に違和感を覚える。
7.レミリア、紅霧異変を起こす。(おそらくは霊夢に)倒される。
8.咲夜、レミリアが幻想郷の人間にあっさり敗れた姿とその後を見て心を開くようになる。
という想像である。
あるいは、1-2と3-4を入れ替えることも可能だろう。つまり、咲夜と出会う&返り討ちにする→咲夜を屋敷に置いて幻想郷に来訪&負け&帰宅、という流れである。
幻想郷への移住が決まったとき、紅魔館内でどのようなやり取りがされたのかは想像するしかない。しかし、いざ転移してみたらすでにレミリアと幻想郷の妖怪に契約が結ばれており、それによりレミリアらが幻想郷の人間を襲えないということを咲夜が知れば、違和感を覚えるのは当然のこととも言える。
とはいえ、これは阿求の記した想像に想像を重ねた想像である。あくまで自然な流れにするにはこのような案もある、ということにすぎない。
十六夜咲夜は人間を選ぶ
さてここからは幻覚度が高まる内容となる。
前項で述べた想像が的中しているなら、レミリアが幻想郷にやって来た動機の一つに「咲夜が心を開くには、幻想郷の人間が必要である」と判断したと想像することはできないだろうか。
咲夜の設定には「でも一部の人間達はそんなことを一切気にしないで接してくれるし」(東方永夜抄-キャラ設定テキストより引用)とあるように、十六夜咲夜の人物描写として「幻想郷の人間のおかげで心を開いていった」という文脈があるのは確かである。
求聞史紀における吸血鬼異変周りの幻想郷転移時期に関しても、そのような文脈を描く一環ということは考えられないだろうか。
もちろん、それがレミリアの意図したことだったかは判らない。幻想郷に移住しようと思った最大の理由は別のことで、咲夜の心が良い方向に向かったのは偶々だったと考えることもできる。むしろ、作中に明記されていない以上はその方が自然だろう。
一方で、幻想郷で負けたレミリアがわざわざそのまま居続けた理由は想像してしまう。
移住→吸血鬼異変を起こす→負けたが、そのまま居着く、という流れであれば、理由も何もなく「既に移住はしているのだから、負けたとしても居心地が良ければ再度移住はしないだろう」と想像することはできる。
しかし、ここまでで見てきたようにな、吸血鬼異変を起こす→帰宅→咲夜と出会う→移住という流れだったらならどうだろうか。咲夜の存在が移住の大きなきっかけであるとしても、少なくとも作中描写と矛盾はしないのではないだろうか。
レミリアは、自分では咲夜の心を開くことはできないと判じた。だから幻想郷にやってきて、紅霧異変を起こした。結果、咲夜は人間たちのおかげで心を開き、しまいには不老不死の誘いに対して「私は一生死ぬ人間ですよ。大丈夫、生きている間は一緒に居ますから」という返答するまでに至ったのではないだろうか。
考察というよりも想像のまとめであるが、参考になれば幸いである。
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