名前という境界とEx三人娘

 東方では「名付け」に関わる考え方がいたるところに登場する、ということは昨今認識が広まっていると思います。

 これについて、自分はなんとな~くで想像していることがあります。それは、能力や性質を「名付け前」の方向に向いているか「名付け後」の方向に向いているかで分類することのできるキャラクターが一定数いるのではないかということです。

 今回の話のオチは、そう考えたときにフラン・こいし・ぬえの三人は割と近い位置にいるのではなかろうかという趣味趣向と希望的観測で突っ走った類いのものです。それではいってみましょう。

はじめに

 「名付け」という事象そのものについての記述は、本記事では割愛させていただきます。当サイトではこちらの記事で情報が判りやすく整理されていますので、事前に確認したい方は是非先に読んでいただくと良いかと思います。

 で、名付け前・名付け後の方向を向いているってつまりは何が言いたいんだということですが、判りやすい例を挙げるなら筆頭は純狐さんです。無名・純化といった彼女を構成する諸要素は、名付けた後の状態から名付ける前の状態へと向かうものになっています。こうしたときに、純狐さんは「名付け前」を向いたキャタクターとして分類する、といった具合です。

 このような形で話を進めるつもりですが、一つだけ補足をするなら、名付け前後の状態はそれぞれ「定まらないもの」と「定まったもの」に通じる、という点が重要になるかと思います。

フランドール・スカーレットの場合

 彼女を象徴するのは「破壊」です。一般的な吸血鬼のイメージからは中々想像付かない代物ですね。これを今回の話題に沿うように捉えるなら、定まった形の物をそうでなくしている訳なので向いているのは「名付け前」です。

 ……と、これだけでは単にむりくり繋げただけですが、他の角度からの情報も加えるとより納得のいくものに(多分)なります。その情報とは、彼女の姉であるレミリア・スカーレットです。

 レミリアの操るという「運命」は定められるもの、つまり「名付け後」です。加えて彼女の動向には度々「名付け」が見られるという指摘も巷で囁かれたりしています。咲夜に対する名付け、ロケットに対する名付けなどです。

 このように姉という対比的な存在において「名付け後」への意識が多く見られることは、フランドールを理解する上でも重要になるのではないかと思います。なにより姉妹でそういう正反対の性質を持ってるの、燃えるね……。

古明地こいしの場合

 彼女の象徴となるのは「無意識」です。最近ナラトグラフ拡張版の「夢の世界」の項でそのままユングが引用されていてオオと思いましたが、すなわち意識の内我々が認識できない領域にあるものです。

 認識できる、それは一定の形に収まっているということなので、その反対にいる彼女は「名付け前」側です。

 そして、フランドールの場合と同じように、彼女にも比較対象にできる存在がいます。怨霊も恐れ怯むおねえちゃん、古明地さとりです。

 さとりは種族そのままに相手の心を読む能力を持っていますが、更に頻出するキーワードとして「トラウマ」があります。

 恐怖により強く印象づけられた記憶。人の記憶が曖昧なものである中で、トラウマはその形を保持し続けます。この性質は、名前によって確かな存在となった「名付け後」と通じる部分があります。

 以上のように、古明地こいしにおいても全体的なイメージの「名付け前」との親和性とその対称となる存在が認められます。フランとこいしの共通点として「Exボスで妹ポジ」ということは一番に挙げられがちですが、むしろこうしたキャラの根底に似通ったものがあるからこそこれらの共通点も必然的に生まれたと言えるのかもしれません。

封獣ぬえの場合

 彼女の象徴、言わずもがな「正体不明」です。これは三人の中だと一番解釈がしっくりいくと思います。「正体」というそれが何であるのかを定めるものを取っ払い、混然とした状態にする。まさしく「名付け前」に戻す能力です。

 しかし、今回のオチに繋げるにはこれだけでは足りません。+αとなるフランやこいしとの接点を探す必要があります。

 二人と比べると、ぬえには比較対象となる存在が足りないように思われます。強いて言えばマミゾウぐらいです。

 ……二ツ岩マミゾウ。「化けさせる程度の能力」。

 彼女は戦闘の中で弾幕を獣の形に変えたスペルカードを披露します。

 物の形を変える。無から有を産み出している訳ではありませんが、有を確かな有としてあらしめる枠組みを変えてしまう。これは名前を変えるのに匹敵する行為です。

 つまり彼女は「名付け後」に影響を与える能力を持っています。

 そんな彼女と対等の妖怪であるぬえ。元ネタで特に接点がある訳でもない二人が知った仲であるのには、ひょっとするとこうした対的存在としての立ち位置が秘められていたではないでしょうか。

結論とおまけ

 という訳で、今回取り上げた三人の共通点をまとめると

・名付けの概念において「名付け前」の状態に当たる要素への方向性を持っている

・対称的に「名付け後」への方向性を持ったキャラクターとセットになっている

があるのではないか、ということでした。

 完全に趣味の感想ではありますが、二次創作でも見かけることの多い彼女達に対してこのようなアプローチを用いた作品も色々見られたら面白そうだなと思います。(自分でやれ)

 それで、おまけとは何だという話ですが、先程の条件に実は当てはまるんじゃないかというキャラクターがもう一人いたのです。

 それが、東方風神録Exボス、洩屋諏訪子です。

 ……と勿体つけて言ってみましたが、これは本当に可能性というか予感的な思い付きなので、詳しい検討は今後機会があればしてみたいというレベルものです。

 とりあえず現時点で何が引っかかったのかというと、彼女の保有する能力です。

 「坤を創造する程度の能力」。字面では何を意味しているのか想像しがたいですが、一つ明確な事として、この表記は神奈子と対になるものであるのです。

 そして、前置きで紹介させていただいた記事をもう一度読んでいただくと判りやすいと思うのですが、彼女は神様の中でもより「名付け前」の状態に近い八百万の神に分類される存在であり、一方で神奈子は名付けによる性能変化が特徴と語られた神霊に分類されます。

 対となる能力の存在と名付け前状態との関連性、加えてExボスという立ち位置から、彼女もフラン・こいし・ぬえのグループに対して同等の接点を持っているのではないかという本当の本当にふわっとしたおまけでした。

 このような三人(乃至四人)の絡み、次の創作の題材にいかがでしょうか。

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